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MARVEL GRAPHIC NOVEL: EMPEROR DOOM _ STARRING THE MIGHTY AVENGERS

1986年

DAVID MICHELINIE : WRITER (Concept by Mark Gruenwald, David Michelinie, and Jim Shooter)

BOB HALL : ARTIST

 

 フランス領ポリネシアの都市パペエテでは、紫色の肌をした一人の男が、将軍や市長を顎で使い、陽気に楽しんでいた。だがこの男ゼベディア・キルグレイブに声をかける者がいた。その者は怖いもの知らずのキルグレイブの襟を掴んで持ち上げ、従わせる。

 雨のマンハッタンを、帽子にトレンチコートで身を包んだ一人の男が、濡れるのにもかまわずゆっくりと歩いていた。彼にとって水の中にいるのは生まれて以来普通の事なのだ。彼はかつて王と呼ばれた男。警官はこの男の足から小さな翼がはえているのを見て、S.W.A.T.チームの出動を要請する。男はレストランの中へと入っていった。

 店員がこの男にご予約はございますかと訊ねる。予約はないというこの男を止めようとする店員だが、その紳士は私の客だと声がし、同時にブラストが撃ち込まれ男のトレンチコートを焼いた。ネイモア・ザ・サブマリナーの正体を現したこの男は怒るが、レストランで待っていたのが旧知のドクター・ドゥームであるのを知り、席につく。ドクター・ドゥームはネイモアに、サイコ・プリズムという紫色の宝石の形をしたデバイスを見せる。ドゥームはこれに、人の意志を操るフェロモンを出すヴィランパープルマンことゼベディア・キルグレイブの髪の毛が入っており、その精神操作能力を使うことができると説明する。それでどういう計画を立てたと訊ねるネイモアに、今はヨーロッパの小国ラトヴェリアを治める自分だが、この力で世界を支配するのだと答えるドクター・ドゥーム。

 席を立つ二人に店員が声をかけるが、ドゥームの宝石で操られており、何も食べず金も払わない二人を快く見送る。店の外には警察の特殊部隊が待ち受けていたが、これもドゥームに操られ二人を見逃す。ドクター・ドゥームはネイモアに協力を要請し、自分が世界を征服した暁には、ネイモアが何十年も求めてきた海の完全な自治権を認めると持ちかける。と、ドゥームは突然ネイモアに建物の影に隠れるように言う。上空をアベンジャーズのアンドロイドヒーロー、ビジョンが通過していった。ドゥームの宝石は人間を従わせることができるが、ロボットには効力がない事にネイモアは気付く。ドゥームはそのため、3人のロボットに制御ディスクを取り付けろと言い、自分は大型のプリズムを製作していると言って、ディスクとプリズムをネイモアに渡す。この計画に同意したネイモアは、その二つを受け取りドゥームと握手を交わした。

 スタントマンのサイモン・ウィリアムズは、映画撮影中だった。手榴弾を鉄カブトで押さえるシーンで吹き飛ばされ、服はボロボロになるが、ワンダーマンとしての能力を持つ彼には傷一つない。

 撮影を終え、車でウェストコースト・アベンジャーズの本部の屋敷へ戻ってきたワンダーマン。女性ヒーローのモッキンバードが、ホークアイと一緒にピザを食べるんだけどあなたもどう?と声をかけるが、自分の変異した体に食事は必要ないんだと応えるワンダーマン。ホークアイは吊したリンゴを矢で射抜く練習中だったが、モッキンバードが来たのをみて抱き合いキスする。ワンダーマンは庭で読書中のティグラに声をかけ、屋敷に入っていった。中ではトニー・スタークが待っていて、きみの体を構成しているエネルギーについて調べさせてくれと言われ、ワンダーマンは服を脱いで、トニーが製作したタンクの中に入った。

 一方、東海岸アベンジャーズ本部では、執事のエドウィンジャービスがビジョンに来客を案内してきた。その来客が、海底人類で地上の人間とは敵対しているサブマリナーであるのに驚き、他のメンバーに知らせていないのかとビジョンはジャービスに言うが、何故かジャービスは何事もなかったかのように退出してしまった。サブマリナーはディスクを出しビジョンに取り付けようとするが、ビジョンは体の密度を雲のようにうすくして非実体化し、サブマリナーの手はビジョンの体を突き抜けてしまう。さらに、拳をダイヤモンドなみの硬度に変えてパンチを打ち込むビジョン。だがサブマリナーはそれを避け、タイタン人のアベンジャーズメンバー、スターフォックスと、ビジョンの妻でミュータントの魔女スカーレット・ウィッチを部屋へ呼び入れ、スターフォックスにスカーレット・ウィッチの首に手をかけろと命じる。慌てるビジョン。人質を取ったサブマリナーはビジョンに動くなと言い、ビジョンの額にディスクを張り付けた。サブマリナーはビジョンに踊れと命じ、制御ディスクの力でビジョンは命令に従い踊り出す。ネイモアはこの記憶は回路から消去しておけと命じ、その場を去っていった。

 カリブ海のとある島に、垂直離着陸機が降下してきた。機から降りたドクター・ドゥームは警備ロボットに出迎えられ、チタニウムの扉の奥へ進む。海中に設置されたガラス張りの部屋があり、そこに巨大なサイコ・プリズムが設置され、中にはパープルマン本人が入れられていた。この屈辱はいつか返すぞと怒るパープルマン。ドクター・ドゥームはその金属のマスクの奥で笑うのだった。

 カリフォルニアのウェストコースト・アベンジャーズ本部ではホークアイモッキンバード、アイアンマンが食事をしていたが、そこへティグラがあわててやって来て、モニターを示す。そこには東海岸アベンジャーズのビジョンの部屋が映っており、サブマリナーが額になにか付けたかと思うとビジョンが踊り出すという異常事態が起こっていた。驚きつつ、一体どうしてこんな事になっているのかわからないホークアイたち。

 一方、ギアーズ・ガービンのガレージでは、ガービンがマシンマンの肩にディスクを貼っていた。そこへ第三の人物が現れ、マシンマンに回れと命じる。制御ディスクの力でマシンマンは、伸ばした手を軸に回転し続ける。やって来た男はネイモアで、ガービンを操りマシンマンにディスクを取り付けさせたのだ。

 ドゥームの島では、巨大サイコ・プリズムの中に閉じ込められたパープルマンことゼベディア・キルグレイブが、ドクター・ドゥームを罵倒していた。人を操るこの力は俺のものだ、お前はこの小賢しい機械装置がなければ俺の力を使えない、お前は支配者には値しないんだとわめくキルグレイブ。その言葉に、ドゥームは自分もプリズムの中へ入る。自分はこのマスクでお前の力を遮っていると言うドゥームは、鉄仮面を外す。キルグレイブはチャンスとばかりに、俺を解放しろ、逆立ちしろ、ぴょんぴょん跳べ、自殺しろと立て続けにドゥームに命令するが、ドゥームは動じない。驚愕するキルグレイブ。誰も自分の力には逆らえないはずだ。ドクター・ドゥームは、それで誰が支配者にふさわしいかねと問い返すのだった。

 ホークアイとアイアンマンはジェット機を用意し出撃準備を進めていた。アイアンマンは実験中のワンダーマンを置いていくと言う。モッキンバードとティグラがフライトデッキに入ってきて、ある島が最近ラトヴェリアの金で買収されたという情報を持ってきた。ネイモアの裏にはドクター・ドゥームがいる可能性がある。ウェストコースト・アベンジャーズは発進する。

 プリズムから出たドクター・ドゥームに部下が呼びかけ、アベンジャーズ西海岸チームの基地から飛行物体が接近中だと知らせた。ドゥームは即座に迎撃態勢を命じる。

 島に着陸したアベンジャーズ。アイアンマンはアーマーのセンサーで背後に動くものを察知。地面が開き、レーザー砲付き金属触手が出現した。ホークアイの弓とアイアンマンのリパルサー光線がこれを撃破。だが続いて十数体の警備ロボットが向かってきた。

 シカゴにある見捨てられた廃工場。そこはアダマンチウムのロボット、ウルトロンの秘密基地となっていた。ウルトロンはサブマリナーの接近に気付き、手からのブラストをくらわせる。だがサブマリナーはその程度ではまいらず、人間に似た機械の化け物であるウルトロンには嫌悪を感じると言い、組みついてディスクを張り付ける。サブマリナーはウルトロンにひざまずけと命じ、ウルトロンがその通りにするのを満足そうにながめるのだった。

 ドゥームはスクリーンで警備ロボットとアベンジャーズの戦いを見ていたが、部下の報告に驚喜する。モッキンバードの蹴りとアイアンマンのリパルサー光線が警備ロボットを倒していき、ホークアイはロープアローでロボットたちをまとめて縛りつける。ティグラは野獣のような動きでロボットにキックをくらわせる。だが警備ロボットたちの次の動きを見てホークアイは驚く。ロボットたちは一列に並び、アベンジャーズを扉まで迎える道を作るのだった。

 一同は扉の中へ入り、ドクター・ドゥームと対面。ドゥームは、そこで我が究極の勝利を目撃せよ、我が人生最大の発明がついに完成するところだと言い、レバーを入れた。中にパープルマンを入れた巨大サイコ・プリズムが起動し、その影響が地球全体へ広がっていく。ホークアイたちは、ここに何をしに来たのだろうと言い出し、ドゥームに挨拶して去っていった。

 2日後、ドクター・ドゥームは国連総会に出席。この混沌とした地球の状況を改善するには、一人のリーダーを選ぶしかない、地球の皇帝をだと演説し、満場一致で地球皇帝に選出される。世界の支配者となったドゥームは、側にいたネイモアにもうお前の役目は終わったと言い放つ。約束を違えられたネイモアは怒り、今度はサイコ・プリズムでお前を操ってやると小さい宝石を使おうとする。だがそれは今や巨大サイコ・プリズムの増幅装置となっており、ネイモアまでもドゥームに従ってしまう。ドゥームは支配者としてホワイトハウスへと向かった。

 ドゥーム皇帝という単一の意志に支配された世界には、戦乱のない平和が訪れていた。アフガニスタンからはロシア軍が撤退し、エチオピアの人々は農業に勤しみ、南アフリカでは黒人が代表者となる。犯罪や飢餓は減少し生産性が高まり、軍隊は必要最小限を残して解体され始めた。

 数週間後、トニー・スタークが作ったタンクの蓋が開き、ワンダーマンが解放された。そこには誰もおらず部屋が真っ暗で、何かあったのだろうかと思うサイモン。彼はトニー・スタークに声をかけるが、トニーは皇帝の専用機の設計をしたんだとにこやかに答える。皇帝とは何だ?と思うサイモン。

 屋敷のロビーへ出てみると、キャプテン・アメリカワスプが来ており、なぜか本部の壁をキャンバスに変え絵を仕上げていた。皇帝の決定だよとにこやかに言うキャプテン・アメリカにとまどいつつ、ワンダーマンは次にティグラのところへ行き事情を聞こうとする。だがティグラも忙しいのよと言って出ていってしまった。と、テレビでドクター・ドゥームがプエルトリコの独立を認めたというニュースが報じられ、街頭パレードをしているドゥームの姿を見て、ワンダーマンは驚く。あわててキャプテン・アメリカやワスプに奴を止めに行こうと言うワンダーマン。だが二人は逆に唖然とし、キャプテン・アメリカホワイトハウスへのホットラインに通報する。

 ワシントンD.C.では、ホワイトハウスの執務室にドクター・ドゥームが座っており、自分の支配は完璧で戦争や飢餓が無くなり人々は満足しているが、彼自身はこの現状に奇妙な不満を感じていた。そこへキャプテン・アメリカから通報が入る。ワンダーマンについて調べたドゥームは、サイモン・ウィリアムズが呼吸をしていない事を知り、興味を覚え、キャプテン・アメリカに彼を阻止せよと命じる。

 だがワンダーマンは事情が判らないまま抵抗を開始。キャプテン・アメリカをぶっとばし、グランドピアノをホークアイたちに投げつけて駆けだし、警報を聞いてアーマーを着けながら走るトニー・スタークを殴りつけて、ホークアイのスカイサイクルに乗り逃走した。

 街に出たワンダーマンだが、このニュースはすでにテレビで報道されており、民衆は物を投げてワンダーマンを落とし、殴り始める。ワンダーマンは地面をぶち割り下水道へ逃亡。何が起きているのかわからないサイモンは困惑する。撮影所に侵入したサイモンはメーキャップで別人に変装。

 世界を手中におさめたドゥーム皇帝だが、その心中は複雑であった。自分が目指したのは征服者であって管理者ではない、勝利を目指す戦いは気高いが、挑戦を受けずに得た勝利に何の価値があろうかと疑問を持ってしまうドゥーム。

 変装したサイモン・ウィリアムズは郊外を歩きながら、ドゥームによってうまく動かされている地球の現状に手を下すべきなのかと迷っていた。林の中の小屋で、駆けてきた犬にじゃれつかれ、サイモンは盲目の女性エレン・バーネスと出会う。ハル・カヌットという偽名を名乗ったサイモンは朝食に誘われる。エレンはラジカセでモーツァルトを聞いていた。彼女との会話の中で、たとえ皇帝が繁栄をもたらしていても、自分の人生でどう適所を見つけるのは別問題よという言葉を聞き、サイモンは進むべき道を得る。エレンが落としたリンゴがボートの下に転がっていったが、サイモンはボートを片手で持ち上げリンゴをエレンに返す。盲目のエレンには何が起きたのか判らない。リンゴを受け取りながら、モーツァルトも波乱の人生を送ったけれど、もし彼があきらめてしまっていたら、音楽を書いていなかったでしょう、それは世界の損失ねと言う。サイモンは「世界の損失」と戦うための決意を固めるのだった。

 アベンジャーズ基地へ侵入したワンダーマンはコンピューターを調べ、ビジョンのもとへ現れた時にネイモアが持っていた宝石に入っているのが、パープルマンの髪の毛である事を突き止める。パープルマンについて調べると、デアデビルキングピンが強い意志力でパープルマンの影響を脱したと記されていた。ワンダーマンは行動を開始する。

 訓練中のキャプテン・アメリカのところへやって来たワンダーマン。キャプテン・アメリカはシールドを投げつけてきて、第一投はワンダーマンの後頭部を直撃する。だが二投目を受け止めたワンダーマンはシールドを投げ返し、それを避けたキャプテン・アメリカを殴りつけ、首根っこを掴み、これを見ろと無理矢理モニターを見せる。画面には、これまでドクター・ドゥームがファンタスティック・フォーアベンジャーズと敵対してきた記録が流れ、ドゥームの手がキャプテン・アメリカの首を絞めている場面が映った。混乱するキャプテン・アメリカだが、ついに精神支配を脱し自分を取り戻す。

 やっと味方を得たワンダーマン。キャプテン・アメリカホークアイ、ワスプ、アイアンマンの3人に、皇帝の作った映像だと言ってうまくモニターの前に座らせ、同様の映像を見せた。ホークアイとワスプはすぐに精神操作が解けたが、トニー・スタークはショックを受けているようだ。

 彼らはクインジェットで出撃しようとするが、ホークアイの姿が見えず探しにいく。部屋から廊下へモッキンバードの戦闘棒がとんできた。中へ入ると、ホークアイが自分の妻モッキンバードをノックアウトしていた。精神操作されたモッキンバードはドゥームへ連絡してしまい、仕方なくホークアイは妻を倒したのだ。5人のアベンジャーはクインジェットに乗り出撃する。

 ワシントンにいたドクター・ドゥームは、アベンジャーズがサイコ・プリズムを狙うと考え、サブマリナーを従えヘリに乗り込む。ピンチにもかかわらずドゥームはなぜか生きる実感を得ていた。

 クインジェットに乗りドゥームの島へ向かうアベンジャーズ。だが一足早く島へたどり着いていたドゥームは島の防衛システムで砲撃し、クインジェットは撃墜されてしまった。手放しに喜ぶ部下たちにいらだつドゥーム。これは擬装で、アベンジャーズは当然脱出しているはずだ。

 アイアンマンがホークアイを、ワンダーマンがキャプテン・アメリカを抱えて、5人は無事着地していた。だが次の出迎えが現れる。二機の巨大戦車と一機の四脚戦車が砲撃してきた。周囲には警備ロボット軍団も隊列を組んで迫ってくる。ワンダーマンは巨大戦車に突撃して操縦席をぶち割った。キャプテン・アメリカはシールドを投げ警備ロボット数体の首をとばし、残ったロボットと格闘戦を繰り広げる。ホークアイは弓で巨大戦車を狙うが、四脚戦車が吹き出したガスを浴びてしまう。アイアンマンはまだドゥーム皇帝に従うかどうか迷いを持っていたが、四脚戦車に踏みつぶされそうになるホークアイを見て、ドゥームは敵だ、そしてホークアイは友人だとようやく自分を取り戻し、リパルサー光線で四脚戦車を吹きとばす。ワンダーマンは残り一機の巨大戦車を持ち上げてぶん投げ、警備ロボット軍団にぶつけて一掃した。ドゥームはネイモアにサイコ・プリズムの防衛を命じる。

 昆虫サイズになったワスプは排水口から内部へ潜入し、手からのビームをサイコ・プリズムに浴びせる。ネイモアは警備ロボットに銃撃を命じるが、ワスプはロボットを撃破し、ネイモアが首からさげていた宝石を破壊する。ワスプを掴んで捕らえるネイモア。そこへ他のアベンジャーが突入してきたが、ネイモアが握っているワスプを見て手が出せない。ワスプはネイモアに、海へ帰らないの?と聞き、ネイモアはそれは皇帝に禁じられていると答える。水はネイモアを強力にしていまうため彼と戦う時には避けるべきだが、彼の意志は弱くなっていると気付いたワスプはあえて部屋のガラスをビームで割った。海水が流れ込んできて、それを浴びたネイモアは自分を取り戻す。

 モニターで見ていたドゥームは、こんな時のためにプリズム室に設置しておいた神経ガスのスイッチに手をかけるが、皇帝に様々なことを要求してくる声を聞いて、押すのをためらい、これも運命だと押すのを止めた。サブマリナーは 巨大サイコ・プリズムを叩き割った。宝石と共に、ドゥームの支配した世界も崩壊し、元の争いのある世界に戻っていく…。

 ネイモアは犠牲となったゼベディア・キルグレイブを抱えて装置から降ろす。キャプテン・アメリカはドゥームを追うが、ドゥームは脱出ジェットで飛び去っていった。サブマリナーも海へ帰っていく。

 ヘリコプターで島を離れるアベンジャーズは、イラン・イラク戦争の再開や、アメリカがドゥームの支配に協力したと主張してロシアが国連に抗議を提出したというニュースを聞く。キャプテン・アメリカは、世界は完全ではない、だが人々は自分自身の選択する自由を持たなければならないと言う。どちらが良かったのか迷いがあるホークアイだが、自分たちは現状を受け入れなければならないと答えるのだった。

 

 MARVEL GRAPHIC NOVELは、大判、良い紙質、多いページ数で発行される豪華版のコミックレーベルで、通常より大きいスケールで一話完結の話をじっくり楽しむことができる。この話はドクター・ドゥームが世界の皇帝になってしまうという特別編だ。

 ドゥームが世界の支配者になる力をもたらすのは、DAREDEVIL #4に初登場という長い歴史を持つがヴィランとしては小物、だがその能力が良く考えたら凄いよなという、パープルマンだ。このへんの渋いチョイスが素晴らしい。

 ドクター・ドゥームが手を組むのは、Fantastic Four #6以来の歴史が長いコンビである、ネイモア・ザ・サブマリナーだ。今回はあっさり裏切られ配下にされてしまうが、それもまた彼ららしい。

 ヒーロー側の主役となるのは、ワンダーマンことサイモン・ウィリアムズ。体がイオンエネルギーで変質しており、食事や呼吸の必要がないという特性が、今回のポイントとなる。たった一人で反抗する意味を盲目の女性との出会いで見つけるのも、良い展開だ。

 この時期アベンジャーズは、東海岸チームと西海岸チームに分裂していた。この話は西海岸のウェストコースト・アベンジャーズがメインだが、キャプテン・アメリカとワスプが合流してきて、どちらにも見せ場がある。

 ネイモアはドクター・ドゥームの依頼で3人のロボットを無力化する。その中に我らがマシンマンも入っていて、ドゥームがマシンマンもマークしていたことが判る。マシンマンの登場は、ネイモアに操られる1ページと、全ての崩壊を描く1コマのみだが。

 ドゥームがパープルマンと対面し、意思の力だけで相手の能力が効かないことを示してみせるシーンは、大物ヴィランであるドクター・ドゥームの格の高さを見せてくれて嬉しいところだ。

 あっさり操られてしまうウェストコースト・アベンジャーズだが、アイアンマンのアーマーは気密服ではないのか。やはり通常の呼吸は口の部分から空気を取り込んでいるのか。

 ドゥーム皇帝の支配で平和になる世界。南アフリカ共和国の全人種参加選挙は1994年まで行われなかったので、この時点での黒人大統領はあり得ない事だった。世界平和を考えるとこちらの方が理想的な世界ではあるのだが、誰もがただ自分に従う世界にドゥーム本人が満足していないのが、いかにも彼らしい。

 アベンジャーズの反撃は、巨大戦車との戦いが大判ページで描かれ迫力がある。ドゥームは最後は、自分でこの支配を手放すという、気位の高い選択をして去っていく。各所に見応えのある、充実の内容のコミックだ。