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2001: A SPACE ODYSSEY #8

1977年 JULY

EDITED, WRITTEN AND DRAWN BY JACK KIRBY

 

 兵士たちが、機械人間を取り押さえている。額にX-35と書かれたそのロボットは「私は物ではない! だが私は何だ? 私は何だ!?」と叫び、すさまじい力で兵士を振り飛ばした。兵士は火炎放射器を浴びせるが、ロボットは「なぜ私は作られた!? なぜだ!?」と言いながらなおも暴走を続ける。兵士たちはたまらず退避し、銃撃するが、ロボットは止まらない。

 研究室にも警報が流れていた。この機械人間のプロジェクトを統括する科学者ドクター・ブロードハーストのところへ、ハイネスという男が駆けつけ、X-35の暴走を知らせる。この種の失敗を重ねてきたことに悩む博士に、ハイネスはプロジェクトの中止を進言するが、博士は「彼らは狂ったのではない、彼らは単に、人間の形をした思考するコンピューターに過ぎないのだ」と答える。だがそのコンピューターは、自分をそれ以上のものだと考えているようだ。博士はロボットを止めるために、自爆装置のスイッチを入れた。

 必死でロボットを食い止めようとする兵士たちは、レーザーライフルで銃撃を続けていたが、ロボットの金属の体はこたえず、動きが止まらない。X-35が兵士たちへ迫るその時、自爆装置が発動し、大爆発を起こした。

 研究所内に警報が響きわたる。全職員の退避が指示され、技術者たちはプロジェクトの破棄を惜しみつつその場を去る。作りかけも含めすべてのロボットの自爆装置が起動され、この研究の成果は爆煙の中に消えた。ドクター・ブロードハーストは、プロジェクトの最新モデルであるX-51について語る。X-51は他のモデルとは異なり、ドクター・スタックにあずけられてスタックの息子として育てられているのだ。だがX-51に取り付けられた自爆装置も起動される。ブロードハーストは爆発の時にスタックが近くにいたいことを祈る他なかった。

 アベル・スタック博士の家では、博士が彼の息子アーロンとして育てているX-51に、新しい顔のマスクをプレゼントしていた。今回の顔は人間そっくりで、アーロンはとても気に入り、父にお礼を言う。アベル博士はアーロンの首筋のハッチを開き、自爆装置を引く抜く。そして、ロボットの姿に戻った息子に別れを告げ、自分の写真の画像を目からのビームで走査させて記憶させる。人間とロボットではあるが、二人は本当の父子のようであった。いまアーロンは父の元を離れ、自由を得るため飛び立つのだ。アーロンは父の用意したグリッド板の上に立ち、グリッドは反重力装置を補助して、アーロンを空高く飛翔させた。それを見送るアベル博士。研究成果であるロボットを息子として育て、彼を逃がしたアベルは、息子の逃亡を完全なものにするため、起動した自爆装置と運命を共にするのだった。

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 空を飛ぶアーロンはジャンボジェット機と併走しパイロットたちを驚かせ、街へやって来る。ビルの上から人間たちが歩き回るのを見ていると、通報を受けた警官隊が彼を包囲した。その場から飛び去ろうとするアーロンだったが、警官隊は発砲し、さらに軍のヘリまで到着しミサイル攻撃を受ける。飛んで逃げようとするアーロンだが、戦闘機の攻撃があり、岩山に身を隠した。なぜ自分が軍に狙われるのかと考えるアーロン。彼のコンピューターにも「データ不十分」で結論が出ない。その間にも軍の部隊が迫る。音波ビームバズーカの攻撃を受け吹き飛ばされるアーロン。

 気が付くと彼は捕らえられ、拘束され、一人の軍人と対面したいた。その男はアーロンを口汚く罵倒し、もし逃げ出せば眼前のソニックガンを撃ち込んでやるぞと脅す。なぜこんな扱いを受けるのか疑問なアーロン。

 この様子をモニターしていたドクター・ブロードハーストは、その軍人クラッグ大佐の態度に怒りを露わにする。ハイネスは彼は優秀な指揮官だと言い、ブロードハーストもそれは認める。大佐の部下たちにこれまでのロボットの反乱で死傷者が出ているのも事実だが、それにしても酷い事をする。大佐はアーロンから人間の顔のマスクを奪い、機械の顔をさらけださせたまま拘束しているのだ。ブロードハーストとハイネスはクラッグ大佐に会い抗議する。

 拘束されたアーロンはこの境遇に苦しんでいた。彼は自分を機械だ屑だと言った、だが自分は考え、感じ、心が痛む。なぜ自分を兄弟のように扱ってくれない? なぜ皆は私を嫌うのか!? 苦悩するアーロン。その時、彼の前に突如、モノリスが現れた。モノリスからの力でパワーを取り戻したアーロンは、驚くべき力で拘束を破壊し脱出する。モノリスとの出会いは彼に何をもたらすのか?

 

 前号まで続いた、人類がスター・チャイルドに至る話から一転し、ロボットの主人公が登場する。もちろん映画にも小説にもこんなロボットは登場しない。ここまでやってしまうと、これはほんとに『2001年宇宙の旅』なのか?と思いたくなる。ではこのロボットX-51アーロン・スタックはどうして出てきたのか?

 謎を解く鍵は、1972年に出版された、アーサー・C・クラーク著の『失われた宇宙の旅2001(THE LOST WORLDS OF 2001)』から得られる。この本は、映画のストーリーが決定するまでに様々な案を試行錯誤する中で、結局本編では使われなかったシーンを集めてクラーク自身が解説するというメイキング本だ。映画のメインテーマが「高次生命体が地球人類を進化させ、人類は次なる段階へ変化する」になり、それを実現するために多方向の検討が行われていく様を読むことができる。

 例えば初期稿では、地球人に知性を与える高次の宇宙人が、太古の時代の地球に登場する場面がある。続いて、この宇宙人(クリンダーと名付けられている)が猿人を捕らえて進化のために分析や実験を行う様子も描かれている。だが、当時の技術では宇宙人を造ってもありきたりのモンスター映画になってしまうという理由で、結局この構想は捨てられている。完成した映画や小説では、異星人の高次ツールであるモノリスが主体となった。

 そして、映画ではボイスコンピューターであるHAL9000は、初期稿ではソクラテスという名のロボットとして登場する予定だったことがこの本に書かれているのだ。

 ジャック・カービーが直接ここから題材を取ったのかは判らない。まず、ソクラテスは人間型のロボットではあるが、X-51ほどではない。描写されるデザインは、右手は三本指だし、左手は万能工具、そして顔の部分はセンサーの集合から成るフレームワークだ。しかし、ソクラテスが人間と同様の思考ができるように訓練されるシーンがある。また、ソクラテスを見た人が機械人間に反感を抱く展開もある。そして、製作者のブルーノ・フォースター博士は、ソクラテスたちロボットが人間にとってかわる存在になることを確信している。いまはプログラムされるままに「生命とは何ですか?」「宇宙の目的とは何でしょうか?」という答えのない質問を発してくるソクラテスだが、

 こういう質問をきっと自発的に、台詞を付けられることもなしに発するようにはるだろう。さらにすこし待てば、その質問に答えるロボットが現れるにちがいない

と述べられ、

 その日が来ても、彼らがおのれの造り主たちと仲良くしてくれていたら……

と書かれているのだ。これらのテーマは、X-51のその後の展開にも関わってくるので注目してほしい。

 さらに、X-51登場と同時代の'70年代後半にジャック・カービーが始めたコミックを読むと、また面白い符号がある。

 '76年にスタートしたTHE ETERNALSには、人類の他にエターナルズ、デヴァイアンツという、猿人から進化させられた種族が登場するのだが、この3種族に進化実験を行った神のような宇宙種族セレスシャルズが実際に登場する。セレスシャルズの姿は異様で不可解であり、人類が理解できない高次の存在として説得力がある。『2001年宇宙の旅』ではリアルに描写できないからという理由で実現できなかった事に、コミックの表現を使って挑んでいるのだ。

 また、'78年にスタートしたDEVIL DINOSAURは、デビルという真っ赤なティラノサウルスと原始人の少年がコンビで主人公なのだが、少年の名がムーンボーイという、小説『2001年宇宙の旅』に登場する〈月を見るもの Moon-Watcher〉を思わせる名前なのだ。さらに、DEVIL DINOSAUR #4から数話続くストーリーでは、宇宙人のロボットが飛来し、ムーンボーイを捕らえて分析する展開があるのだ。

 ジャック・カービーが'70年代後半にマーベルに復帰してから新たに創作したタイトルは、THE ETERNALS、DEVIL DINOSAUR、MACHINE MANと3つあるわけだが、考えてみればそのどれもが『2001年宇宙の旅』初期稿と類似点がある。カービーが、映画や小説の『2001年宇宙の旅』では結局使われなかったアイデアを発展させることで新たなコミックを展開していったと考えると、とても面白い。

 また、X-51の物語は、イアンド・バインダーの『ロボット市民』と類似点が多いことも指摘しておきたい。

 ともあれ、コミック2001: A SPACE ODYSSEYはあと2号続く。