アメコミ情報誌SleepWalker Blog版

昔のアメコミを紹介しています

EARTH X #0

1999年 MAR

JIM KRUEGER and ALEX ROSS : story

JIM KRUEGER : script

JOHN PAUL LEON : pencils

 

 彼の父は、人間の心とは出入り口のようなものだと言った。開くには鍵が要る。そして、出入り口は決して変わらないと。父は天才だった。父親の名はアベル・スタックといった。彼の息子はいま父親が使っていた家の寝室で横になっている。息子の名はアーロン・スタック。父はアーロンに、人とはどのように生きるのか教えてくれた。父は息子に顔と、作法と、表情を与えてくれた。だが目だけは違う。起き上がりアイマスクを外したアーロンの目は、人間のものではなかった。アイマスクを外してアーロンは、眼前にモノリスがあるのを見た。

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 何が起きているのか判らないアーロン。モノリスから呼びかけがあり、彼をX-51と呼ぶ。私の名前はアーロンだと、彼はナンバーで呼ばれるのを拒否する。だが人類の運命を知りたいかと問われ、彼はモノリスに触れる。

 すると突如、アーロンは光輝く地平に飛ばされ、人間そっくりの外装を消される。気付いた時、彼の姿は、メカニックの内装を透明な外装が覆うスケルトンボディに変わっていた。自分の変化に驚き、顔を返してくれと言うアーロン。

 歩いてみて彼は、眼前に地球を見る。そこは月面であった。月面の建物の中を進んだアーロンは、人間のものではない奇妙な建造物を発見する。彼の背後にはモノリスがあり、アーロンは吸い込まれるように中へと入った。

 アーロンは内部の奇妙な廊下を進んで、スクリーンに映った巨大な顔の人物と遭遇する。相手の名はウアトゥ。この世界を観察している異星人、ウォッチャーだ。ウォッチャーはX-51に、自分が彼をここに転移させたと言い、これまで観察してきた地球について教え始める。

 画面に恐竜の姿が見える。これは中生代の映像だ。ウォッチャーは、自分がセレスシャルズの地球への最初の来訪ファーストホストを目撃したと語る。恐竜はセレスシャルズに不適格と見なされ、絶滅させられたのだ。

 その結果、哺乳類の時代となり、猿人が出現した。人類の芽生えにはセレスシャルズの介入があったのだ。セレスシャルズは猿人を捕獲し、進化実験を施す。最初にできた種族デヴァイアンツは悪魔のような姿で攻撃的な性質を付加されており、間もなくセレスシャルズに反抗した。次に創られた種族エターナルズは神々しい姿をしており、人類を守護していく。エターナルズは高い山の上に都市を築き、そこへデヴァイアンツが襲来する。彼らの姿は後に人類に、神や悪魔の物語として伝えられる事になった。

 セレスシャルズとは別の宇宙種族も地球生命に介入した。スクラル人と対立する宇宙国家クリーは、自分たちの尖兵として利用するために、セレスシャルズが人類に植え込んだ変異種子を引き出し超人類インヒューマンズを造りだした。だがインヒューマンズもまた造り手に反抗し、クリーの手を逃れアッティラという都に隠れ住む。

 セレスシャルズは何度か地球を訪れその度に干渉した。二度目の来訪セカンドホストでは反逆するデヴァイアンツを抑えるため大陸を海に沈めた。これはアトランティスの伝説として伝えられる。多数の者が死ぬ光景を見せられたX-51は、セレスシャルズとは悪なのかと問うが、ウォッチャーは善悪とは人間が発明した概念に過ぎないと、客観的な視点を持つ事をX-51に指示する。

 さらにサードホストの際、人類は神話を発展させ、その後様々な時代を経て文明が発達していく。ついに地球最初の人造人間が製作され、それはヒューマントーチと呼ばれるヒーローとなった。第二次世界大戦が起こったが、それは人類の最も大きな前進を引き起こしたとウォッチャーは言う。人類に植えられたセレスシャルズの芽が芽生え、特殊な能力を持つ人間が現れ始めたのだ。キャプテン・アメリカサブマリナーはその能力を使いヒーローとして活動していく。アドルフ・ヒットラーは配下のレッドスカルと共に、優性人種のみを選別しようとした。さらに戦争終結のため作られた原子爆弾が新たな原子の時代を開き、人類や生物が変異していく。一時期は怪獣と化したものが多数現れたこともあった。

 原子の時代は、人類に秘められた変異種子を次々に芽生えさせた。ピーター・パーカー放射能を帯びたクモに噛まれスパイダーマンになったのも、リード・リチャーズたちが宇宙線を浴びファンタスティック・フォーになったのも、ガンマ線爆弾によりブルース・バナーハルクになったのも、放射性廃棄物を積んだトラックの事故でマット・マードックデアデビルになったのも、全てはその変異種子による変化だったのだ。

 ファンタスティック・フォーの一人ヒューマントーチによって行方不明だったサブマリナーが発見され、彼はキャプテン・アメリカ復活のきっかけとなり、数多くのヒーローたちが出現し、アベンジャーズが結成された。またヒーローは地球外からも現れた。クリー帝国を裏切ったキャプテン・マーヴルがその代表だ。ヒーローたちは、同じように人類の中から出現したヴィランたちと戦った。だが、星を滅ぼす宇宙魔神ギャラクタスの襲来は別だ。この時はウォッチャー自身がファンタスティック・フォーに手を貸し、ギャラクタスをも消滅させるアルティメット・ニュリフィアーについて伝えている。ウォッチャーは以前からギャラクタスを知っていたのだ。

 さらに、人類の中の変異種子はミュータントとして芽生え始める。チャールズ・エグゼビアプロフェッサーXとして彼らを集め、X-MENが結成された。インヒューマンズも再び外界で活動を始めた。また、人間により新たな人類の創造も行われた。彼はアダム・ウォーロックとなった。このように、フォースホストの頃には、セレスシャルズにより計画されたすべての進歩が行われていた。この時代はスーパーヒーローの時代であったのだ。

 話を終えて、ウアトゥはX-51に、自分の代わりにウォッチャーとなるように言う。何故だと問うX-51に、ウアトゥは自分が何者かの攻撃により盲目となった事を明かした。ウォッチャーは新たな目を必要としていたのだ。おまえにはその能力があるとウォッチャーは言い、X-51により新たに地球の観察が開始されていく。

 

 マーヴルユニバースを総括しながら未来の物語を展開するという壮大なマキシ・シリーズEARTH Xが開幕。この#0では、ウォッチャー、ウアトゥが自分の目としてマシンマンことX-51アーロン・スタックを入手・改造する展開が描かれている。

 アーロンを召喚するためモノリスが登場するのは、X-51が初めて登場したのが2001: SPACE ODYSSEYのコミックだった事を踏まえているため。アベル・スタックにより人間として育てられたアーロンが人間らしい判断にこだわるところが、このキャラクターを理解して主要人物に起用しているのを見て取れ、ファンとしては嬉しい。

 それに対して、世界の観察のみを行い非干渉を旨とする異星種族ウォッチャーは、非感情的で客観的な判断をすべきだと指摘し続けるのだが、ギャラクタス襲来の時をはじめとしてこれまでかなり人類に手を貸してきた彼を知るファンには、妙に冷酷に映る。

 物語は、ジャック・カービーが’76年に創作したTHE ETERNALSの中の、人類を創造したのは宇宙巨神セレスシャルズであるという設定を基盤に、これまでのマーヴルユニバースを包括して構築されているが、EARTH Xはあくまでマーヴルユニバースを再構成した別の物語であり、本来のユニバースから逸脱・設定改変された部分も多い。他のコミックでは通じない設定もあるので注意が必要である。

 X-51は新たなスケルトンボディに改造されてしまう。前年の’98年に新発売されたiMacがスケルトンボディであり、この時期の流行りのデザインだった。この姿でもこれまでと同じ機能があり、手や目を伸ばすおなじみのギミックが見られる。

 巻末にはマーヴルユニバースを創造したクリエイター、スタン・リー、ジャック・カービースティーブ・ディッコジョー・サイモン、カール・バーゴス、ビル・エベレットへの献辞が記されている。

 このコミックが収録された合本は、

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