アメコミ情報誌SleepWalker Blog版

昔のアメコミを紹介しています

CABLE / MACHINE MAN '98

1998年

MIKE HIGGINS & KARL BOLLERS : WRITERS

RICK LEONARDI : PENCILER

 

 ニュー・メキシコ州にある異様な施設に潜入した特殊部隊は、秘密諜報組織S.H.I.E.L.D.G. W. ブリッジ大佐から通信を受けていた。彼らの眼前には、人間のようなものを入れたいくつものカプセルと、巨大なロボットの頭部があった。

 つい先頃まで、アメリカではゼロ・トレランスという作戦が行われていた。国際的にも公認された、ミュータントの脅威から世界を救うための計画だった。だがこの作戦には、人間を秘密裏に改造したプライム・センチネルというサイボーグたちが投入されており、その非道な事実は次第に明らかとなっていった。ミュータント狩りは中止され、この作戦を主導したバスチオンという謎の男は政府に捕らえられ、刑務所へ送られた。人類をミュータントから守るという彼の野望は妨害された。だが、「オペレーション:ゼロ・トレランス」の悪夢は本当に終わったのか…?

 特殊部隊が発見したのは、プライム・センチネルを製造していた地下室だった。人体改造を受けカプセルに入れられたセンチネルたちは、まだ生存している。部隊のリーダー格、ウィークスはブリッジ大佐に通信する。部隊の一人、クラッグというエージェントは、S.H.I.E.L.D.の上層部に父がいるようだ。だが、彼らは気付いてはいなかった。この施設には番人がいる事を。そう、マシンマンが侵入者に気付き、攻撃を開始したのだ。マシンマンは次々とエージェントを始末していき、通信を切断する。

 独立記念日。ある男が妻のローズと息子を連れ、花火に彩られた自由の女神像を見に来ていた。父は息子に、自由の尊さを説く。子は巨大な像を見て、なぜこれはそんなに特別なの?と聞く。それはな息子よ、これは自由のシンボルだからだよと父は答えるが、二人の目には自由の女神の顔に巨大なミューターントハンター・ロボット、センチネルの顔がオーバーラップする…。

 この二人の意識とは実は、捕らえられ全裸でカプセルに封じられたバスチオンのものだった。ブリックマン上院議員マークス博士に、バスチオンには意識があるのかと問う。博士は限定的な肯定をし、バスチオンは通常の脳波を示さず2進法のコードで意識を現し、既知の遺伝子パターンや指紋も持たないこと、その体は本物の血液や細胞をまったく含まず、ナノマシンで構成されている事を説明する。バスチオンは人間ではないのだ!

 一方、アラスカの宵闇の中、雪上に一人の戦士がたたずんでいた。未来から来たミュータント戦士ケーブルだ。彼は双眼鏡で眼下の屋敷の中を見る。中には「ゼロ・トレランス」を逃れた彼の父母スコットジーン・サマーズがいる。二人の無事を確認したケーブルはその場を立ち去る。

 彼の胸に、これまでの出来事が去来する。致死性のウイルス感染を治療するために未来に送られたこと、テレパスの能力を磨くための訓練を受けた少年時代、アポカリプスストライフとの激しい戦い、そしてシックスパックという傭兵隊の仲間たち…。雪山を進むケーブルだが、突然彼の前にS.H.I.E.L.D.の小型ヘリが飛来してきた。

 S.H.I.E.L.D.の空中要塞ヘリキャリアへと運ばれたケーブル。ブリッジ大佐はケーブルの助けが必要だと言い、バスチオンがカプセルを破り脱走した映像を見せた。警備員に対して手からビームを発射して撃ち殺すバスチオンの姿を見て、普通の人間だと思っていたが…と言うケーブル。最後には施設の外壁が爆発し、バスチオンは外へ出て行った。その超常的な能力を見て、バスチオンはミュータントだったという事か?と訊ねるケーブル。ブリッジ大佐にもバスチオンの正体は掴めていなかったが、バスチオンの目的地は自分の部隊が全滅した施設ではないかとケーブルに話す。その施設では、椅子に座ったマシンマンの頭部へ配線が接続されていた。「X-51ユニットにダウンロード開始…」と音声が響く…。

 すっかり人間離れした外見となったバスチオンは、ニューヨークへと戻っていた。記憶を辿り、ローズがいる家へと来たバスチオンは、彼女に声をかける。ローズはTVを見て彼が戻ってくると思っていた。助けを求めるバスチオンをローズは優しく諭す。だがそこへ狙撃兵が乗ったヘリが飛来、バスチオンをミュータントと誤解し発砲した。バリアで銃弾をはじくバスチオンだが、気が付くと巻き込まれたローズが倒れて死んでいた。その時バスチオンの中の何かが完全に失われた。エネルギーを吹き上げ飛び立ったバスチオンは、ヘリを撃墜し飛び去る。

 ブリッジ大佐から垂直離着陸機を借りたケーブルは、ニュー・メキシコのあの施設の側に着陸した。すぐ側にはS.H.I.E.L.D.のエージェントたちが使ったと思われるヘリが着陸している。レーザーライフルで扉を焼き切ると、中に装備されているガトリング砲や小型ミサイルの迎撃装置が出迎える。テレキネシスのシールドで攻撃を防ぎ、迎撃装置をハンドガンで撃ち壊すケーブル。続いて落とし穴のトラップがあったが、ケーブルはテレキネシスで体を持ち上げ、レーザーライフルで次の扉を吹き飛ばした。

 そこに待ち受けていたのがマシンマンである事に驚くケーブル。だがマシンマンは人間の味方として戦っていたはずだ。マシンマンの方でもケーブルを認識したが、まるで機械のように分析結果を発音し、攻撃を開始。左手を伸ばしてレーザーライフルを掴み、右手のパンチを打ち込んでライフルを奪い突き付けてきた。ケーブルは、マシンマンには人間と同様の会話パターンがプログラムされたはずだ、何を頭に入れられたんだと疑問を覚えつつ、テレキネシスで天井の機械を動かしマシンマンの頭にぶち当てた。倒れたマシンマンだが伸びるパンチで反撃してくる。これをかわしたケーブルはライフルを取り戻し発砲。マシンマンは足を伸ばしてそれを避けたが、突然苦しみだす。不思議に思うケーブル。

 だがそこへ、完全に人間の姿ではなくなったバスチオンが飛来した。何があったんだとケーブルは不審に思う。その隙に、マシンマンは手を伸ばしてケーブルの体に巻き付け拘束してしまった。バスチオンはケーブルには見向きもせず、かつて全てのセンチネルを指揮していた親玉ロボット、マスター・モールドの頭部にアクセスしはじめた。絶体絶命のケーブルは状況を打開するため、自分の体に巣くうテクノ・オーガニック・ウイルスの進行を抑えるのに使っているパワーを解放する。

 その時ケーブルは、マシンマンの記憶に触れた。アベル・スタック博士により人間のように育てられ、政府がプロトタイプを破壊したとき彼を生き残らせるために父が命を犠牲にした事を。父の愛を受けてヒーローとして活動しはじめ、ハルクと戦い、アベンジャーズの一員となった事を。父からアーロン・スタックという名をもらった事を。

 だがケーブルが戦っているその時に、バスチオンはマスター・モールドの目からエネルギーを受け、姿が変化していった。全てをバスチオンへ渡したマスター・モールドの巨大な顔は沈黙する。マシンマンは背後からエネルギー攻撃を受け停止。ケーブルの前に、未来センチネルであるニムロッドに似た姿に変貌したバスチオンが立ちはだかっていた。だが彼は、私はニムロッドではないと言う、私はお前の破滅だ、と。

 

 1996年の「オンスロート」クロスオーバーにて、プロフェッサーXの意識が生み出した凶敵オンスロートによりミュータント以外のスーパーヒーローたちが犠牲となったが、残されたミュータントたちはこの事件の首謀者ではないかと誤解され、ミュータントを危険視する世論は一気に加速する。そんな中登場した謎の人物バスチオンがミュータント弾圧作戦「オペレーション:ゼロ・トレランス」を推進。お尋ね者となったX-MENは逃走する中で、一般人の中に改造人間にされたミュータントハンター・サイボーグ「プライム・センチネル」が放たれている事を知り、この作戦の暗部を明らかにし、バスチオンは捕らえられる。これが1997年のX-MEN系クロスオーバーイベント「オペレーション:ゼロ・トレランス」である。が、この話の謎解きと結末は、クロスオーバー内のタイトルではなく、翌年に刊行された2冊のANNUAL誌で描かれた。それがこのCABLE/MACHINE MAN ‘98と、その続編MACHINE MAN/BASTION ‘98である。この2誌は、ENGINES OF DESTRUCTIONというシリーズ名が付けられている。

 「オペレーション:ゼロ・トレランス」は日本語版も刊行されたが、コミック本編が掲載されたのは途中までで、残りはダイジェストでまとめられ、この2誌についてもあらすじのみが掲載されるにとどまっている。

 この話で突然マシンマンが、しかも敵として出現というのに驚かされる。マシンマンと旧知のクラッグ大佐がこの頃にはS.H.I.E.L.D.上層部にいるという新情報があり、彼の子が登場してマシンマンに殺されたり、マシンマンの旧敵でロボットを危険視する政治家マイルズ・ブリックマン上院議員が再登場したりするのが凝っている。

 マスター・モールドは、1965年という初期のTHE X-MEN #15が初出。THE X-MEN #14-16はミュータントハンター・ロボット、センチネルとの戦いを3連作で描く豪華な話。反ミュータント主義者のボリバー・トラスク博士はミュータントの能力に対応して攻撃・捕獲するロボット、センチネルの軍団を製作するが、センチネルを統括する巨大な親玉ロボット、マスター・モールドは、作り主に反逆し独自に行動を始める。X-MENは次々と捕らえられてしまうが、トラスク博士がロボットの暴走を止めるために設備を破壊し、マスター・モールドと共に爆発に巻き込まれ死亡するという展開だった。初出誌のアートは、レイアウトがジャック・カービー、ペンシルがジェイ・ガービン。

 人間の姿であるが生物ではないことが明かされたバスチオンの謎は、次回で明かされる。