アメコミ情報誌SleepWalker Blog版

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AVENGERS WEST COAST #83

1992年 JUN

ROY & DANN THOMAS : WRITER

HERB TRIMPE : GUEST ARTIST

 

 巨大な交通網の中心部にあるロサンゼルスの街の、ビルの谷間に取り残されたような古びた屋敷の中で、車椅子に座った老人が配下の男と話していた。1947年以降に笑うことがなかったと言う老人だが、ここで久しぶりに大きな口が裂けるように笑う。彼はハイエナという名のヴィランだったのだ。

 夜の人気のない廃自動車が積まれたジャンクヤードで、一人の男がコートを脱ぎ、「ハイエナ! どこに居る?」と叫んだ。その声を聞き現れたのは、武器を手にした荒くれ者4人だったが、男は素早い身のこなしで次々と荒くれ者どもを打ちのめし、最後の敵が撃った銃弾を避けて右フックで打ち倒した。最後の敵の懐に手紙があるのを発見した男は、それを開いて読む。男はゴールデンエイジに活躍した人造人間ヒーロー、ヒューマントーチであり、ハイエナは彼の旧敵であったのだ。この手紙が燃えずに読まれているという事は、お前は発火能力を失っているという事だ、私ならそれを取り戻す助けになれる、また、昔お前の相棒だったトロの行方を捜す手助けもできるぞと書かれてあり、翌日午後5時23分に屋敷に来いと指定してあった。荒くれ者どもを縛り上げた後、ヒューマントーチはいま使っているトヨタ車に乗り込み、巨大な道路網を抜けていった。

 彼が向かったのは、スーパーヒーローチーム、アベンジャーズ・ウェストコーストの本部だった。一同はヒューマントーチからの緊急連絡を受けて集まっていた。中に入ったヒューマントーチは、チームメンバーではなかったティグラがいるのに驚く。また、補充要員のマシンマンの姿もあり、皆にコーヒーをいれて回っていた。ハンク・ピム博士「オペレーション:ギャラクティック・ストーム」にてチームが宇宙へ出る際に、マシンマン、ティグラ、クイックシルバーの3人が基地の維持を任されていたのだと説明する。

 椅子に座ったヒューマントーチは、自分は能力を失い、死んだと思われていたので、「ギャラクティック・ストーム」の時に招集がかからなかったのだろうと言う。マシンマンは彼にコーヒーを注ぎながら、同じアンドロイドのヒューマントーチがコーヒーを飲む事を不思議がる。ヒューマントーチは、自分が1939年に製作された時は、普通の人間と同じくなるように設計された、私の発火能力は設計ミスなのだと言う。彼の発火能力は、最近マスターマンという敵と戦った際に失われていた。ワスプはなぜ緊急招集を連絡したのかと訊ね、ヒューマントーチはハイエナからの呼び出しについて語る。マシンマンは、自分のメモリにはハイエナという犯罪者の記録はないがと訊ねる。トーチは1940年代の事だからと、第二次大戦当時にナチスの手先となり、戦後ハイジャックなどの犯罪に手を染めたハイエナについて語った。最後は’47年にヒューマントーチとパートナーのトロが彼を投獄したと言う。

 だがトーチは、この場合自分一人で行った方が良いと言い、モッキンバードをはじめチームメンバーたちは自分たちの協力は必要ないのかと問う。はたしてヒューマントーチはどういう作戦を考えるのか?

 翌日午後、ラッシュアワーで混雑する高速道路に、車を跳び越えて走るトーチの姿があった。当然のように抗議の声が上がるが、トーチをここまで送ってきたピムは、彼の成功を祈る。トーチは指定された時刻に屋敷へ到着し、中に入り階段を上がる。

 扉の向こうにいたハイエナは、ヒューマントーチについて科学者に調査させたと語る。今はヒューマントーチの体内の免疫機構が発火能力をブロックしているのだと説明したハイエナは、手元にある装置を見せた。この装置はロサンゼルス地区のすべてのコンピューターネットワークとヒューマントーチの脳を繋ぎ、免疫によるブロックを解除できると持ちかけるハイエナ。さらに、FBIやCIAなどのコンピューターにアクセスすることで、トロについての情報も得られるだろうと言う。ハイエナは、その際に得た情報の一部はこちらで利用させてもらうがと条件をつける。ヒューマントーチは旧敵を疑うが、儂がお前を殺す気なら、呼び出した時に銃殺を命じていたと言われ、相手の提案に乗る。トーチは装置から伸びた配線を頭に付け、ハイエナはスイッチを押した。

 時を同じくして、道路で大パニックが起き始めた。ハリウッドではトレーラーの荷台が開いてハイエナの群れが放たれ、野獣たちは他の車に吼えかかる。パサディナでは巨大車輪の特殊車が他の車を踏みつぶして暴走。サンタモニカではセスナ機が道路に墜落し炎上。これは全てハイエナの計画だった。装置に接続されたトーチを前に、自分の計画の成功を腕を振り上げて喜ぶハイエナ。

 専用ジェットで上空にいたアベンジャーズ・ウェストコーストへ、ピム博士から指示が入った。混乱により博士はトーチのトヨタ車を乗り捨てなければならなかったが、なんとか脱出し、指令車コンピューバンにたどり着いていた。彼の指示を受け、飛行するマシンマンクイックシルバーとティグラが捕まり降下、モッキンバードは飛行バイクで飛び出していく。着地したティグラはハイエナの群れを威嚇して追い払う。巨大車両が迫る中モッキンバードは特殊ロッドで車のドアをこじ開け人々を救う。縮小化したワスプは背中の羽根で飛び、巨大車の中へ入ってキーをまわし停止させることに成功。セスナ機の墜落現場ではクイックシルバーが高速で走り竜巻を起こして消火し、マシンマンがセスナの残骸を押して道路から取り除いた。ハイエナが起こした災害は食い止めたが、そこでマシンマンにピム博士から次の指示の通信が入った。

 ヒューマントーチに、発火能力を取り戻せと言うハイエナ。だがトーチはそうせず頭のコードを外し、装置を壁に叩きつけて破壊した。狂ったのかとハイエナは驚く。ヒューマントーチは、ヒョウは住処を変えるがハイエナはそれができないと言い、旧敵がどういう手に出るかアベンジャーズ・ウェストコーストと分析し対策を立てていた事を明かした。それで儂を出し抜いたつもりかとハイエナは車椅子のボタンを押し、手下の荒くれ者を呼び出しトーチに差し向ける。

 だが次の瞬間、床をぶち破ってマシンマンたちアベンジャーズ一同が現れ、あっという間に手下を取り押さえた。何をするつもりだったんだとトーチに問われ、ハイエナはこの街を吹き飛ばすだけの爆発物があったのにと言い、涙を流す。そんな事は聞いていなかったとハイエナの手下まで怒り出すが、ハイエナは意に介さず、自分が刑務所から解放されたのは、希なタイプのガンにかかり死を待つのみだったからだと明かす。トーチは、調査でその事実を知り、自分が永久に苦悩するように計画が仕組まれていることを予想したのだと言う。ハイエナはトーチが能力を取り戻そうとしている事を利用しようとしたが、彼は再びスーパーヒーローになるチャンスを捨ててそれを阻止したのだ。だがハイエナは、たった一つだけ良い事がある、お前は儂を罰することはできないぞ、なぜなら儂はすぐ死ぬからな!と興奮しながら叫ぶ。このドス黒い小さな勝利を得て、ハイエナは気絶する。

 アベンジャーズ一同が見守る中、病床で意識を取り戻したハイエナことヘンリー・モートンソンに、クリグステイン医師が声をかけた。彼のガンは、投獄中の不機嫌さがその大きな要因であり、最近彼が再び笑い始めた事でガンは消失していったと言う。この説明を聞き、ハイエナは出ていってくれと頼む。アベンジャーズは退出し、医師は患者に悪い面だけを見ないようにと「笑いは百薬の長」という格言を授けるのだった。

 

 ハイエナがヒューマントーチに最後の戦いを計画する「HYENA’S LAST LAUGH」というストーリー。’01-’02年のDCのクロスオーバー「JOKER’S LAST LAUGH」を思い起こす方もおられよう。

 ヒューマントーチは1939年のMARVEL COMICS #1が初登場で、ホートン教授の造った世界初の人造人間だが、発火能力を発現し、スーパーヒーローとして活躍した。ファンタスティック・フォーのヒューマントーチことジョニー・ストームとは別人である。

 ハイエナは初出が1977年発行のINVADERS ANNUAL #1。インベーダーズは’69年のAVENGERS #71で初登場したのだが、第二次世界大戦中にキャプテン・アメリカ、ヒューマントーチ、サブマリナーらが組んで戦っていたという後付け設定で描かれたチームで、ストーリーはロイ・トーマスが担当した。今回の話もロイ・トーマスが担当しているため、ヒューマントーチの望みを利用しようとするハイエナの企みから、最後の皮肉な結末まで、実にうまい展開になっている。

 マーヴル最大のスーパーヒーローチーム、アベンジャーズは、この時期東海岸チームと西海岸チームに分かれて活動していた。マシンマンがこの時期までにアベンジャーズの補充要員として活躍するのは、実はこの号のみ。同じアンドロイドヒーローのヒューマントーチとの共演だが、コーヒーを注ぐシーンぐらいしかからみがないのは残念。劇中1コマのみ眼球が描かれたシーンがあって(単純なミスだと思うが)、 マシンマンの絵としては珍しい。

 さらに、この号のあとマシンマンの出番は、ピンナップ画やキャラ解説など限定的なものだけになり、劇中で活躍するのは’98年まで待たなければならない。アベンジャーズメンバーとしては使いにくいキャラクターだったのかもしれない。