アメコミ情報誌SleepWalker Blog版

昔のアメコミを紹介しています

THE INCREDIBLE HULK #234

1979年 APR

ROGER STERN : WRITER

SAL BUSCEMA and JACK ABEL : ARTISTS

 

 ハルクは友人のフレッド・スローンと旅の途中、カリフォルニア州バークレイにある共同住宅に来ていたが、そこでフレッドの友人として紹介され、トリッシュ・スターと再会する。ハルクとトリッシュがすでに知り合いであることに驚くフレッドは、関係を訊ねる。トリッシュは長い話になるわよと断り、話し始めた。

 彼女の叔父はエッグヘッドと呼ばれる天才犯罪者だったのだが、エッグヘッドは彼の発明した装置を動かすため姪を誘拐して装置につなぐという凶行に出て、彼女はアントマンことヘンリー・ピム博士に助けられた。また、トリッシュは旧友のカイル・リッチモンドがナイトホークというスーパーヒーローとしてディフェンダーズに参加しているのを知り、ヒーローとの関わりが続く。だが、イエロージャケットと名乗っていた頃のピム博士と関わった頃、彼女は左腕を失い、ピムの前から去る。その後トリッシュは魔術の腕を磨くが、それをシャザンナという別次元の女悪魔に利用され、ハルクが参加していたディフェンダーズの活躍で開放されたのだった。

 ハルクはトリッシュに、戦いによってハルクの友達がたくさん死んだ、だけどトリッシュは死なせないと言う。トリッシュも、あなたが故意に人を傷つけないことは知っているわと答え、私の旅は悪いことばかりじゃなくて、沢山友人ができたと言う。トリッシュはハルクを食卓に誘い、同居人の一人であるガンサー・マロリーにディナーゲストよとハルクを紹介。ガンサーはハルクを見て絶句する。

 所変わってニューメキシコ州にあるガンマ線研究基地では、ハルクと戦った新人ヒーロー、マーベルマンがホーク上院議員と会い報告していた。上院議員はマーベルマンに礼を言って握手し、次の任務に向かう前にヒーローは、新しいコードネーム、クエーサーと呼んでくださいと言って飛び去った。ガンマ線研究基地内で窓から飛び去るクエーサーを見送ったドクター・サムソンは、病床の「サンダーボルト」ロス将軍の安否を気づかっていた。ロス将軍はうわごとで、娘のベティの名を呼ぶ。

 メキシコシティのホテルでは、ベティが夫のグレンと会っていた。二人の結婚は破局寸前ではあったが、グレンはまだ望みをつなごうと言葉をかける。だがベティは丁寧に突っぱね、何が起きようと私たちはまだ友達でしょうと言い、去っていった。

 一方、バークレイの共同住宅では、ハルクがフライパンの中の食事をむしゃむしゃ食べているのを住人たちが遠巻きに見ていた。ガンサーたちはトリッシュとフレッドに、なんで怪物がここに居るんだ、なぜ生きた爆弾を連れてきてるとひそひそ声で抗議する。あわてて彼らを止めるフレッド。さらにガンサーは、奴はすでに一週間分の食い物を食っちまったと批難。周囲の声にハルクも不快になっていき、フライパンをねじ曲げ、ついにはテーブルを叩き粉砕してしまった。フレッドとトリッシュはハルクをなんとかなだめ、キッチンから出て行く。フレッドは、実際に何かした訳でもない者を拒絶した皆を批判し、地球で最も虐げられた人物に手を貸せないのかと憤る。寝室へ行きハルクは眠りについた。フレッドは、皆はどうしてしまったんだと失望を口にする。トリッシュはわからないわと言い、理想に燃えた'60年代が過ぎ去ってしまった事を噛みしめるのだった。

 一同の中の一人の男がキッチンから抜け出し外へ走った。あの怪物はブルジョア階級の危険な産物だと決めつけた彼は、電話で何処かへ通報した。電話を受けた男はハルクがバークレイにいるという情報を、コーポレーションへ連絡する。

 秘密組織コーポレーションのミスター・ジャクソンはその連絡を受け、組織の邪魔となっているハルクとマシンマンを両方処分できる一石二鳥の作戦を思いつく。

 バークレイの共同住宅の前にトラックが止まり、荷台からガスマスクをつけた工作員たちが降りた。彼らは住宅内に突入しガス弾を投げ込む。ハルクがいる部屋を発見した工作員はガス弾で部屋にいた3人を麻痺させた。そこへ突然、マシンマンが登場! 身動きが取れないハルクに自己紹介し、トリッシュ・スターを連れ去るから取り戻したければセントラル・シティのピーター・スパルディングの家まで来いと言い、トリッシュを抱えて高笑いしながら去っていった。怒るハルクだが体が動かずどうしようもない。

 外に出たマシンマントリッシュ工作員に渡してトラックの荷台に乗せた。マシンマンがマスクを外すと、別の男の顔が! これはマシンマンに化けてハルクを誘い出し両者をぶつけようという罠だったのだ。ハルクはまだ麻痺したまま部屋の中にいたが、怒りのあまり手が動き、部屋を吹き飛ばす。ハルクはあいつを地面に叩き込む!と叫び、フレッドを抱えて走り出すのだった。

 

 カービー以外のコミック作家が初めて書いた、マシンマンが出てくる話なのだが、御覧の通り出てくるのは偽者。これ以前にTHE INCREDIBLE HULKでもMACHINE MANでも登場していたコーポレーションの陰謀を軸にすることで、マシンマンとハルクをスムーズに対決させる段取りになっている。マシンマン本人の登場は次回だが、これでマシンマンがマーベルユニバースのキャラクターとして確定した。と同時に、マシンマンが作られたのが『2001年宇宙の旅』の世界なのかは微妙になる。ともあれ、これでマシンマンの活躍の場が大きく広がったのは確かだ。

 今回の舞台となる共同住宅は、'60年代のヒッピー・ムーブメントの中で自由を求めて集まった人たちの成れの果てを描いていて、これが書かれた'70年代末の状況が反映されている。かつてアウトローとして身を寄せ合ったはずの彼らがアウトローであるハルクを拒絶してしまうという、理想が現実に押し流されてしまった不条理と、どこへ行っても拒絶されるハルクの悲劇をリンクさせて描いていて巧い。