アメコミ情報誌SleepWalker Blog版

昔のアメコミを紹介しています

2001: A SPACE ODYSSEY #8

1977年 JULY

EDITED, WRITTEN AND DRAWN BY JACK KIRBY

 

 兵士たちが、機械人間を取り押さえている。額にX-35と書かれたそのロボットは「私は物ではない! だが私は何だ? 私は何だ!?」と叫び、すさまじい力で兵士を振り飛ばした。兵士は火炎放射器を浴びせるが、ロボットは「なぜ私は作られた!? なぜだ!?」と言いながらなおも暴走を続ける。兵士たちはたまらず退避し、銃撃するが、ロボットは止まらない。

 研究室にも警報が流れていた。この機械人間のプロジェクトを統括する科学者ドクター・ブロードハーストのところへ、ハイネスという男が駆けつけ、X-35の暴走を知らせる。この種の失敗を重ねてきたことに悩む博士に、ハイネスはプロジェクトの中止を進言するが、博士は「彼らは狂ったのではない、彼らは単に、人間の形をした思考するコンピューターに過ぎないのだ」と答える。だがそのコンピューターは、自分をそれ以上のものだと考えているようだ。博士はロボットを止めるために、自爆装置のスイッチを入れた。

 必死でロボットを食い止めようとする兵士たちは、レーザーライフルで銃撃を続けていたが、ロボットの金属の体はこたえず、動きが止まらない。X-35が兵士たちへ迫るその時、自爆装置が発動し、大爆発を起こした。

 研究所内に警報が響きわたる。全職員の退避が指示され、技術者たちはプロジェクトの破棄を惜しみつつその場を去る。作りかけも含めすべてのロボットの自爆装置が起動され、この研究の成果は爆煙の中に消えた。ドクター・ブロードハーストは、プロジェクトの最新モデルであるX-51について語る。X-51は他のモデルとは異なり、ドクター・スタックにあずけられてスタックの息子として育てられているのだ。だがX-51に取り付けられた自爆装置も起動される。ブロードハーストは爆発の時にスタックが近くにいたいことを祈る他なかった。

 アベル・スタック博士の家では、博士が彼の息子アーロンとして育てているX-51に、新しい顔のマスクをプレゼントしていた。今回の顔は人間そっくりで、アーロンはとても気に入り、父にお礼を言う。アベル博士はアーロンの首筋のハッチを開き、自爆装置を引く抜く。そして、ロボットの姿に戻った息子に別れを告げ、自分の写真の画像を目からのビームで走査させて記憶させる。人間とロボットではあるが、二人は本当の父子のようであった。いまアーロンは父の元を離れ、自由を得るため飛び立つのだ。アーロンは父の用意したグリッド板の上に立ち、グリッドは反重力装置を補助して、アーロンを空高く飛翔させた。それを見送るアベル博士。研究成果であるロボットを息子として育て、彼を逃がしたアベルは、息子の逃亡を完全なものにするため、起動した自爆装置と運命を共にするのだった。

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 空を飛ぶアーロンはジャンボジェット機と併走しパイロットたちを驚かせ、街へやって来る。ビルの上から人間たちが歩き回るのを見ていると、通報を受けた警官隊が彼を包囲した。その場から飛び去ろうとするアーロンだったが、警官隊は発砲し、さらに軍のヘリまで到着しミサイル攻撃を受ける。飛んで逃げようとするアーロンだが、戦闘機の攻撃があり、岩山に身を隠した。なぜ自分が軍に狙われるのかと考えるアーロン。彼のコンピューターにも「データ不十分」で結論が出ない。その間にも軍の部隊が迫る。音波ビームバズーカの攻撃を受け吹き飛ばされるアーロン。

 気が付くと彼は捕らえられ、拘束され、一人の軍人と対面したいた。その男はアーロンを口汚く罵倒し、もし逃げ出せば眼前のソニックガンを撃ち込んでやるぞと脅す。なぜこんな扱いを受けるのか疑問なアーロン。

 この様子をモニターしていたドクター・ブロードハーストは、その軍人クラッグ大佐の態度に怒りを露わにする。ハイネスは彼は優秀な指揮官だと言い、ブロードハーストもそれは認める。大佐の部下たちにこれまでのロボットの反乱で死傷者が出ているのも事実だが、それにしても酷い事をする。大佐はアーロンから人間の顔のマスクを奪い、機械の顔をさらけださせたまま拘束しているのだ。ブロードハーストとハイネスはクラッグ大佐に会い抗議する。

 拘束されたアーロンはこの境遇に苦しんでいた。彼は自分を機械だ屑だと言った、だが自分は考え、感じ、心が痛む。なぜ自分を兄弟のように扱ってくれない? なぜ皆は私を嫌うのか!? 苦悩するアーロン。その時、彼の前に突如、モノリスが現れた。モノリスからの力でパワーを取り戻したアーロンは、驚くべき力で拘束を破壊し脱出する。モノリスとの出会いは彼に何をもたらすのか?

 

 前号まで続いた、人類がスター・チャイルドに至る話から一転し、ロボットの主人公が登場する。もちろん映画にも小説にもこんなロボットは登場しない。ここまでやってしまうと、これはほんとに『2001年宇宙の旅』なのか?と思いたくなる。ではこのロボットX-51アーロン・スタックはどうして出てきたのか?

 謎を解く鍵は、1972年に出版された、アーサー・C・クラーク著の『失われた宇宙の旅2001(THE LOST WORLDS OF 2001)』から得られる。この本は、映画のストーリーが決定するまでに様々な案を試行錯誤する中で、結局本編では使われなかったシーンを集めてクラーク自身が解説するというメイキング本だ。映画のメインテーマが「高次生命体が地球人類を進化させ、人類は次なる段階へ変化する」になり、それを実現するために多方向の検討が行われていく様を読むことができる。

 例えば初期稿では、地球人に知性を与える高次の宇宙人が、太古の時代の地球に登場する場面がある。続いて、この宇宙人(クリンダーと名付けられている)が猿人を捕らえて進化のために分析や実験を行う様子も描かれている。だが、当時の技術では宇宙人を造ってもありきたりのモンスター映画になってしまうという理由で、結局この構想は捨てられている。完成した映画や小説では、異星人の高次ツールであるモノリスが主体となった。

 そして、映画ではボイスコンピューターであるHAL9000は、初期稿ではソクラテスという名のロボットとして登場する予定だったことがこの本に書かれているのだ。

 ジャック・カービーが直接ここから題材を取ったのかは判らない。まず、ソクラテスは人間型のロボットではあるが、X-51ほどではない。描写されるデザインは、右手は三本指だし、左手は万能工具、そして顔の部分はセンサーの集合から成るフレームワークだ。しかし、ソクラテスが人間と同様の思考ができるように訓練されるシーンがある。また、ソクラテスを見た人が機械人間に反感を抱く展開もある。そして、製作者のブルーノ・フォースター博士は、ソクラテスたちロボットが人間にとってかわる存在になることを確信している。いまはプログラムされるままに「生命とは何ですか?」「宇宙の目的とは何でしょうか?」という答えのない質問を発してくるソクラテスだが、

 こういう質問をきっと自発的に、台詞を付けられることもなしに発するようにはるだろう。さらにすこし待てば、その質問に答えるロボットが現れるにちがいない

と述べられ、

 その日が来ても、彼らがおのれの造り主たちと仲良くしてくれていたら……

と書かれているのだ。これらのテーマは、X-51のその後の展開にも関わってくるので注目してほしい。

 さらに、X-51登場と同時代の'70年代後半にジャック・カービーが始めたコミックを読むと、また面白い符号がある。

 '76年にスタートしたTHE ETERNALSには、人類の他にエターナルズ、デヴァイアンツという、猿人から進化させられた種族が登場するのだが、この3種族に進化実験を行った神のような宇宙種族セレスシャルズが実際に登場する。セレスシャルズの姿は異様で不可解であり、人類が理解できない高次の存在として説得力がある。『2001年宇宙の旅』ではリアルに描写できないからという理由で実現できなかった事に、コミックの表現を使って挑んでいるのだ。

 また、'78年にスタートしたDEVIL DINOSAURは、デビルという真っ赤なティラノサウルスと原始人の少年がコンビで主人公なのだが、少年の名がムーンボーイという、小説『2001年宇宙の旅』に登場する〈月を見るもの Moon-Watcher〉を思わせる名前なのだ。さらに、DEVIL DINOSAUR #4から数話続くストーリーでは、宇宙人のロボットが飛来し、ムーンボーイを捕らえて分析する展開があるのだ。

 ジャック・カービーが'70年代後半にマーベルに復帰してから新たに創作したタイトルは、THE ETERNALS、DEVIL DINOSAUR、MACHINE MANと3つあるわけだが、考えてみればそのどれもが『2001年宇宙の旅』初期稿と類似点がある。カービーが、映画や小説の『2001年宇宙の旅』では結局使われなかったアイデアを発展させることで新たなコミックを展開していったと考えると、とても面白い。

 また、X-51の物語は、イアンド・バインダーの『ロボット市民』と類似点が多いことも指摘しておきたい。

 ともあれ、コミック2001: A SPACE ODYSSEYはあと2号続く。

2001: A SPACE ODYSSEY #7

1977年 JUNE

EDITED, WRITTEN, AND DRAWN BY JACK KIRBY

 

 宇宙飛行士であったゴードン・プルエットは森の中を歩いていたが、宇宙での事故のあと自分がなぜここにいるのか記憶がなかった。何が起こっているのか? 気付くと着ていたはずの宇宙服がなくなり普段着になっている。彼はこの森の風景に安らぎを覚える。岩を背に座り込んだ彼の体は、次第に老い、モノリスが現れプルエットをスター・チャイルドに変えていった。

 誕生したスター・チャイルドは新たな力と思考を得て、モノリスのもとを離れ、彗星より速く宇宙を飛翔していった。様々な世界をまわるスター・チャイルド。原始の惑星では恐竜のような生物が戦いあっていた。対照的に、機械技術が極限に発達し驚くべき巨大な建造物を作り上げた世界もあった。

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 そして彼は、文明が崩壊するほどの戦いが行われた世界へとやってきた。瓦礫の上で、兵士はライフルを向けてくるが、スター・チャイルドは炎を発し武器を焼く。逃げ出した兵士を追っていくと、他のも人々がいた。そのうちの一人は、この世界の汚染に耐えきれずに倒れて死んだ。それを宙からながめるスター・チャイルド。

 スター・チャイルドはこの惑星の破壊された文明の跡を見てまわり、銃を手にした野蛮な男たちが女性を襲っているところに遭遇する。男たちは女性を捕らえるが、そこへ一人の兵士が登場し、男たちに向かっていった。集団で兵士をリンチする男たちだが、兵士は逆襲し、鞄から手榴弾を投げつけた。男たちは吹き飛ばされていき、女性は救われた。抱き合う二人。だが男たちが最後の力で男を、さらに向かってきた女を、銃殺してしまう。その場には誰も生き残らなかった。それを見たスター・チャイルドは考える。この惑星は死以外何も生み出さなかったのか? あの二人が最後に見せた勇気と愛を、この星ができた意義として、スター・チャイルドはその力でエネルギー化し、自分の後ろに引っ張って惑星を離れる。そして銀河を横断し、ちょうど生命が誕生する寸前のエリダヌス座イプシロン星へと飛来し、生命誕生のエネルギーとして海へと加えた。別の惑星で生まれた貴重なものは、何万年も後にこの星の生命として開花するだろう。スター・チャイルドは次なる答えを求めて、宇宙の旅を再開するのだった。

 

 人類の次の段階である新たな種スター・チャイルドになった者が、それから何をするかは、映画では語られず、小説版でもわずかに語られるだけだった。コミック版も前号まではスター・チャイルドになるところまでで終わっている。映画の続編として書かれた1982年発行の小説『2010年宇宙の旅』ではある程度語られるのだが、誰しも気になるそのテーマに、本号ではコミック版なりの答えを描いているのが意義深い。愚かさから滅んだ星と、そこにあった人間の美しさが次代へと伝えられるというこの物語は、まるで手塚治虫の『火の鳥』のようだ。

 スター・チャイルドについては本号で区切りがつけられ、次号では別のキャラクターが誕生する。

2001: A SPACE ODYSSEY #6

1977年 MAY

EDITED, WRITTEN AND DRAWN BY JACK KIRBY

 

 宇宙船のスクリーンに、敵の異星人たちの顔が映る。だが相手の言葉は理解できず、何を要求しているのか皆目わからない。焦りながらなんとか翻訳できないかと試みる宇宙船の乗組員二人。だがそこへやってきた三人目の乗組員ハーベイ・ノートンは、異星人の攻撃にこれこそコミックファンの夢だと有頂天で、さらに相手の目的はプリンセスに違いないと断言する。彼にとってカプセルから出てきた女性は自分の相手役のプリンセスなのだ。敵はプリンセスを探知しているに違いないと言うノートン。この緊急事態に浮かれたことを言うコミックおたくにいらだつ二人の乗組員。そこへさらに攻撃が加えられた。急いで宇宙服を着なければとあわてる二人をおいて走り出したノートンは、敵の攻撃のスリルを楽しみながらエアロックを通り抜け、異星宇宙機へ行きプリンセスと会った。だがプリンセスも人間の言葉を理解できないようだ。宇宙船に残された二人は、ノートンの勝手な書き置きを見て怒る。

 異星宇宙機に乗ったプリンセスとノートンは、敵の戦闘艦の追跡をかわそうと宇宙空間を圧倒的な速さで疾走していた。ノートンはプリンセスに名前や故郷を訊ねるが、返事は返ってこない。と、敵艦から攻撃を受け、それを振り切るためにプリンセスは「スター・ドライブ」を起動。あっという間に宇宙機は空間を飛び抜け、人類未到の異星へたどり着いた。驚き興奮するノートン

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 だがそれも束の間、スクリーンに宇宙艦の姿が現れた。追跡されたのだ。プリンセスの宇宙機は攻撃をかわし岩山をくぐり抜け、建物へと近づいていったが、そこで撃墜されてしまう。ぐったりするプリンセスを抱えて脱出したノートンは、彼女が示す建物へと向かう。敵艦から兵士が降下してきた。プリンセスはノートンに銃を握らせ、それを撃ったノートンは威力に驚く。敵兵士を一掃したノートンはプリンセスと共に建物に向かった。そこにあった装置に登るプリンセス。ノートンが下で見ている中、プリンセスはその物質転送機を起動させて消えていった。自分が置き去りにされたことに気付くノートン。そこで、敵艦の攻撃で建物が崩れる。瓦礫に生き埋めになったノートン。戦闘艦は去っていった。気絶したノートンの上にまるで墓標のようにモノリスが立ち、ノートンの体を変貌させる。

 気が付くとノートンは、再びヒーローのコスチュームを着ていた。今度のはキャプテン・コズミックの衣装だ。彼は自分の街を窓から見おろし、安堵する。彼の体は老いていき、モノリスノートンスター・チャイルドに変えるのであった。

 

 異星の「プリンセス」のために尽力するノートンだが、彼女に理解されず便利に利用されたに過ぎないことが語られ、なんとも哀れだ。ノートンに彼女を助けさせたモノリスの意図もわからないまま終わるのだが、最後にはノートンはスター・チャイルドに変えられるところをみると、宇宙規模では何かしらの意味があったことなのだろう。

 人類の知らない星系へ行きそこを描写するのは『2001年宇宙の旅』の初期プロットにあった展開なのだが、コミックではカービーがコミックならではの効果を使って人知の及ばぬ風景を絵にしている。

アメコミONLYイベント「TEAM UP 13」にサークル参加します

アメコマー菅野のアメコミ同人誌サークル「アメコミ向上委員会」は、2019年5月25日(土)に蒲田の大田区産業プラザPiOにて開催されるアメコミONLYイベント「TEAM UP13」 にサークル参加します。

 

【追記】【お願い】頒布しました「銀鷹」のうち1冊が18-19ページが抜けた乱丁本であったことが判りました。もし乱丁本をお買い上げいただいた方がおられましたら、次回以降のイベントでお申し出いただければ、対応させていただきます。申し訳ありませんでした。

 

頒布予定の同人誌をお知らせします。

 

銀鷹 【新刊】

:シルバーエイジ・ホークマンの紹介本です。ゴールデンエイジで輝かしい活躍をみせたホークマンをシルバーエイジで再始動するにあたり、ガードナー・フォックスはどんな構成にしたか?を語ります。

 

シェルドン・モルドフのゴールデンエイジ・ホークマン

:ゴールデンエイジ・ホークマンを、シェルドン・モルドフのアートがもの凄い!という視点を軸に紹介しています。10年以上前の同人誌駆け出しの頃に出した本ですので稚拙なのがお恥ずかしいのですが、今回少部数再版します。

 

JKGA

:シルバーエイジのグリーンアローは、一時期ジャック・カービーが描いていた時期があるのです。この時期の魅力をお伝えする本です。

 

ジャック・カービーファンタスティック・フォー -接触篇-

ジャック・カービーが描いた、ファンタスティック・フォーが登場するコミックを、Fantastic Four #21まで御紹介。マーベルのシルバーエイジ開幕を感じていただければ!

 

ジャック・カービーファンタスティック・フォー -発動篇-

:上記の続刊。カービーのアートが加速度的に進化していき、マーベルユニバースも広がっていく醍醐味を是非!

 

たとえ赤狩り人とよばれても 50年代のキャプテン・アメリカ 【委託】

:ラジアクさんの同人誌を委託頒布。あまり知られていない、キャプテン・アメリカが'50年代に復活していた時期について、全てのストーリーと魅力を紹介・解説されています!

 

The Ghost in the Iron Shell '80-90年代のアイアンマンに何が起きていたか 【委託】

:Humanflyさんの同人誌を委託頒布。タイトル通り'80-90年代のアイアンマンをじっくりしっかりみっちり大解説! 個人的にこの時期が大好きなので、お勧めです!

 

当日はよろしくお願いします!

2001: A SPACE ODYSSEY #5

1977年 APR

EDITED, WRITTEN, AND DRAWN BY JACK KIRBY

 

 三つ目で牙が生え四本腕の一つにビームガンを持った恐ろしげな宇宙怪人が迫る。額にその名の由来のマークを印したスーパーヒーロー、ホワイトゼロは宇宙怪人を強襲し、痛烈な右パンチでぶっ飛ばした。この2040年の未来では、コミックの世界は実体を持っている。ホワイト・ゼロはザコの宇宙人悪役たちをすごい早さで片付けていき、抹殺爆弾即死光線の発生装置の破壊に成功した。だがそこで、コミックブックの定石通り、宇宙人の首領デス・マスターがスクリーンに現れ、プリンセス・アドーラは我が手にあるぞとあざ笑う。悪の化身を倒しプリンセスを救うため通路を急ぎ走るホワイト・ゼロだったが、突如眼前に黒い石板が現れ、驚く。彼はそれが、2001年に月で発見されたようなモノリスだと気付いた。その有名な映像はスミソニアン博物館に収められているのを彼は知っていたが、眼前にあるのは実物のようだ。モノリスに触れた時、彼は宇宙を感じるが、突然足下の床が落ちた。デス・マスターの罠だ。地面に向かって落下していき、さらにミサイルまで撃ち込まれるが、ホワイト・ゼロはうまくかわして着地し、デス・マスターのタイムワープ円盤へとたどり着いた。デス・マスターは、もう遅い、あと5秒で発進だと勝ち誇るが、ホワイト・ゼロは切り札の指ビームを発射しデス・マスターを蒸発させる。正義の勝利だ。ヒーローは円盤のドアを開け、中のプリンセスと対面する。ああ、だが何ということだろう。こんなことはスーパーヒーローの歴史上なかったことだ。そこにいたのはコスチュームを着たデブのおばちゃんだった!

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 抱きつくおばちゃんを制し、彼は壁のボタンを押して係員に苦情を訴えた。おばちゃんは自分に不満のヒーローに文句を言う。係員は、自分たちのところのモデルはきみの要望を果たせなかったようだが…と反論しようとするが、すっかりしらけたヒーローは、いいからもう出してくれといい、その部屋から出る。ここはコミックの世界を体感できる娯楽施設だったのだ。ホワイト・ゼロはこれからヒーローを体験しようと順番待ちをしている皆に、このコミック村で成功できないような奴はセーターでも編んでなと笑いものにされ、恥をかいたまま部屋を出て行く。

 着替え室で、ホワイトゼロはただの男ハーベイ・ノートンに戻った。マスクを取ったところで支配人が入ってきて、あなたとの契約には登場させる少女についての言及はなかった事は思い出していただきたいと言い訳を始めた。うんざりなノートンは、モノリスの登場に驚かされたから料金はそのままでいいよと答えたが、意外なことに支配人はモノリスなど出していないと返事をする。そして、実際の冒険に憧れるあなたのような方は宇宙計画に参加されてはと支配人は勧め、ノートンは適当にあしらって施設から出ていった。

 ノートンは、魅力的だが実在しないヒーローの世界から単調な現実へと戻ってきた。2040年のニューヨークはドーム都市になっており、公害がひどく破棄された区域も多い。ノートンは地下鉄に乗り自宅へ戻った。ダイヤル一つでできる夕食を食べ、立体テレビの格闘番組を見て、一本15ドルする高山の澄んだ空気を酸素マスクをつけて吸い込みリラックスする。

 翌日ノートンはロング・アイランドのビーチへ泳ぎに行き、海の景色と冷たい水を楽しんだ。だがこの風景も単なるホログラムなのだ。ここに現実はない。自分は何をすれば満足できるのか? 突然彼の前にモノリスが現れ、それに触れたノートンは、唯一の現実的な冒険を求めて宇宙計画に参加することを決意した。

 ここは海王星から100マイルの宙域。ノートンと仲間たちはそこで、異星の宇宙機の捕獲に成功していた。その内部には、未知の文字が書き込まれたカプセルがあった。自分たちの宇宙船からスクリーンを通してそれを調べるノートンたちは、カプセルの中から異星の女が現れるのを見る。明らかに人間とは異なるが、美しい女性の姿に感動するノートン。彼が求めていたものが現れたのだ。だがその時、宇宙船が何者かの攻撃を受けた。窓から宇宙空間をのぞいたノートンは、巨大な宇宙戦闘艦を見る。コミック村では体験できない圧倒的な光景。彼の運命は?

 

 前回までで古代の時間が描かれていたので今回は中世あたりが舞台かと思いきや、さにあらず。タイトルは2001年宇宙の旅だというのに、今回はなんと2040年である。しかもとつぜんコスチュームヒーロー対宇宙怪人のバーチャル娯楽というぶっ飛んだ展開! モノリスとの出会いは未来人ノートンに何をもたらすのか? ラストで登場する異星人女性は、カービーが以前THORで描いたリゲル人そっくりだ。

2001: A SPACE ODYSSEY #4

1977年 MAR

EDITED, WRITTEN AND DRAWN BY JACK KIRBY

 

 戦の用意は調った。ラクは自軍に侵攻命令を出す。新たに発明された車輪を備えた馬車に乗り、大軍団が出発していく! 石器時代を超える技術を得て軍を発展させたマラクは、ナポレオンに先駆けて世界を相手にしていた。進軍の先にある石器時代の部族の武器は新たに作られた金属の武器に粉砕され、対抗しようとする者は切り払われ、マラク軍の通った後には死体ばかりが広がり、動くものといえばハゲタカのみ。マラク軍の進撃は続き、その噂は恐怖とともに広まった。それを聞きつけた伝令が、リレーにより伝達され、女王ジャレッサの国へと伝わっていった。

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 知らせを受けたジャレッサの国の臣下は危険が迫っていることを女王に進言するが、女王はおびえる臣下を制し、精神の部屋へとおもむく。部屋の穴からモノリスが出現し、ジャレッサに運命を伝えるのだった。

 マラク軍はその後も進み続けていた。金属の武器は敵を圧倒し、金属の盾は敵の攻撃を防ぎ、馬は圧倒的なスピードをもたらし、車の発明は進軍に必要な食料や物資を大量に運ぶことを可能にしていた。そしてマラクはついに、目的であったジャレッサの国へと到達する。軍勢がその国を取り囲んだ時、城壁が開いて一人の女性が馬に乗り駆けてきた。マラクは軍に動かぬよう命じ、その女性ジャレッサと会う。初対面の二人だが、お互いによく知っていた。兜を取り素顔をさらしたマラクはジャレッサの手を取り、二人は結ばれるのだった。運命の輪のような進軍がもたらした技術の進歩を得て、二人はこれから国を発展させていくのだ。

 時は移り2001年。火星の衛星軌道上にある、巨大な輪のような宇宙ステーション「リバティーI」が、隕石群の襲来を受けていた。宇宙ステーションの司令官ハーバート・マリクは退避命令を下し、部下たちを脱出させていた。一人で宇宙ステーションに残ったマリクは眼前に迫る隕石群をスクリーンに見て死を覚悟するが、黒い石板がいるのを見て宇宙服に着替え最後の探索に向かった。モノリスを通り抜けたマリクは様々な宇宙のイメージを見る。恐ろしげな触手怪物や、巨大な岸壁を通り抜け、彼は古い街の側の草むらに倒れていた。

 彼は宇宙服から半裸の姿となっており、古代の装束に身を包んだ女性が彼の側に待っていた。運命の出会いを感じた二人は、共に街に歩みだす。二人はこのあと人生を共にし、子孫を増やすのだ。モノリスは、スター・チャイルドにならなかった二人を見送る。一方で、スター・チャイルドになった者は星の世界へと旅立っていくのだった。

 

 マラクのストーリー後編。武力による進撃を続けたマラクも、最後には運命の出会いを経て子孫を残し国を繁栄させる。過去編最長のページ数を使った描写は素晴らしい。一方、後半の未来編では、初めてスター・チャイルドにならないエンディングが描かれた。こういう、映画の筋書き以外のエンドもありなのかと驚かされる。

2001: A SPACE ODYSSEY #3

1977年 FEB

EDITED, WRITTEN AND DRAWN BY JACK KIRBY

 

 古代の世界、大きな戦が行われていた。侵略する部族と防衛する部族が激突しているのだ。その中でも、仮面で顔を覆い石斧を振るい戦い続けるマラクという男が戦場を支配している攻め手の大将格であるマラクは、狂戦士のような勇猛さで防衛する部族を次々と片付けていった。彼は、未来におけるアレクサンダー大王やナポレオンの通る道を拓いているのだ。戦闘は終わり、マラクたちは勝利する。その部落には死屍累々が広がっていた。その時、突如強襲してきた一撃がなんとマラク愛用の石斧を粉砕した! 自分の手には斧の柄しか残っていないことに驚くマラク。次にマラクは岩を持ち上げて叩きつけようとするが、岩も相手の武器に粉砕されてしまった。相手が持つのは、これまで見たこともないほどなめらかで硬い棒で、美しく輝いていた。相手は老人であり、老人の力で自分の武器が破壊されたのに驚いたマラクは、仮面を脱ぎ、老人に掴みかかって棒を奪った。棒の製法を訊ねるが、老人はマラクの脅しにも屈せず、石が語ってくれたと言うのみで、製法を明かさない。マラクは別の手を考え、老人を解放し、あとをつけた。

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 老人はモノリスのところへ行き、祈りを捧げる。マラクはそこへ駆け寄り、モノリスに手を差し出した。その時マラクは宇宙を見、宇宙船や宇宙ステーションを見て、最後に自分に語りかける女性の姿を見た。老人はマラクが自分と同じく石と交信したことを知る。この女性を二人はジャレッサと呼び、マラクは侵攻を続け彼女を手に入れようと考える。同じ体験をしたことで老人はマラクに協力することにするのだった。

 イーゲルと名乗った老人は、火を起こし、マラクの武器を鍛え始めた。今ここに、石器時代が終わり、青銅器の時代が始まったのだ。マラクは戦士たちを集め、大きな戦の準備をすると言い、指示を出していく。戦士たちは青銅器の原料となる鉱石を採掘して加工をし始めた。さらに、馬を食料とすることを禁じ、乗り物として飼い慣らしはじめた。組織を強力に統率するマラクは指揮を続ける。そこへ石が投げつけられ、驚いたマラクは石を投げ返すが、その一投は金属の盾で防がれた。お調子者の男が、イーゲルの作った盾を試すためにやったのだ。マラクは素晴らしい出来の盾を手にし喜ぶ。ついにマラクは金属の兜、青銅の剣で完全武装した。部下の志気も高い。マラクはさらに、侵攻のため自分たちや食料を速く運ぶ方法を考案しろとイーゲルに命じる。イーゲルは食料を保存する容器は作っていたが、ジャレッサを手にするためマラクの要求はエスカレート。容器を振り払ってイーゲルに迫った。そのとき偶然、マラクが放った容器の蓋が転がっていった。それを見たイーゲルはあることを思いつく。彼らの運命もまた転がりはじめた…。

 

 猿人、原始人と続いたこのストーリーは、今回古代の青銅器時代まで進む。今回の主人公である古代の武将マラクは、進歩した技術により青銅器の武器を手に入れ、さらにラストで車輪の発明があって、軍団の力が飛躍的に高まる。

 前号までは過去の時代をコミックの前半で描いていたが、今回はこの号すべてが使われていて、描写も迫力たっぷりだ。次号では後編が描かれる。

2001: A SPACE ODYSSEY #2

1977年 JAN

EDITED, WRITTEN AND DRAWN BY: JACK KIRBY

 

 原始時代、ヴィラという女性がいた。頭を動物の牙で飾り、棒につけた燃えさかる髑髏を突き出し、原始人の男たちを威圧している。武器を手にやってきた男たちは、彼女の奇怪な行動に驚き恐れる。彼女は精神の石から死者を司る力を得ているのか? 男たちは威圧されその場を去ったが、ヴィラは自分を守るためさらなる力を必要としていた。

 ヴィラは死した獣の骨が散乱する荒々しい火の山の険しい道を登っていった。彼女の前に現れるモノリス。ヴィラは精神の石が自分に何かを語りかけるのを感じた。啓示を受けたヴィラは、獣の骨が人に死の恐怖の感情をもたらすことに気付くのだった。

 原始人の男たちは燃えさかる火を前に槍を手に荒々しい踊りを踊っていた。そこに、奇怪な叫び声が響く。彼らの前に、巨大な骨をかぶり女悪魔と化したヴィラが現れ、槍を置きひれ伏せ!、さもなくば我に喰われるであろうと叫んだ。この策略は成功し、男たちはヴィラを崇め、石の家を建て捧げ物を献上するようになった。こうして身の安全と地位を得たヴィラ。彼女が人類で最初に得たこの道は、後世の王や議会へつながるものであった。

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 時は移って未来。ヴェラ・ジェントリーというNASAの女性宇宙開拓者が、木星最大の衛星ガニメデの基地にいた。彼女はこの地に飛来するというUFOの観測が任務なのだ。ついに飛来したUFOは、基地を攻撃し、ヴェラは宇宙服を着たまま走って逃げる。UFOは基地の生存装置を破壊してしまった。岩山の間に逃げ込んだヴェラだが、そこへ宇宙服を着た異星人が迫り、銃撃される。洞窟の中に逃げ込んだヴェラの前に、モノリスが出現した。迫ってきた異星人に追い詰められたヴェラはモノリスを通り抜け、宇宙や異星怪物を見る。さらに宇宙服から水着になってプールで泳ぎ、椅子に座って眠る。急速に老いたヴェラを、モノリスはスター・チャイルドに変えるのだった。

 

 前半で昔の人類を描き後半で未来を描くという構成は1話と同じだが、第2話の主人公は女性になり、映画から大きく離れた。前半のヴィラ・ザ・シーデビルの話は、第1話の石器を手に入れた猿人という物質的な進歩の次の段階として、死という概念を周囲に示す、精神的な進歩を描いている。

 後半は女性宇宙開拓者が宇宙円盤や異星人兵士に追われるというトンデモ展開である一方、モノリスを通り抜けたあと宇宙を幻視し日常の風景に戻ったあと老いてスター・チャイルド化するという展開はまだ映画に準じている。こうしてこのタイトルは徐々に映画から離れていき、次号は前後編となるのだ。

2001: A SPACE ODYSSEY #1

 1976年 DEC

 EDITED, WRITTEN & DRAWN BY JACK KIRBY

 

 太古の時代、一人の猿人が木の上に立ち、棍棒を持って獲物を狙っている。彼の同族は今そこにはいない。彼はそれを好ましいと思う。彼は他の者が嫌いであった。他の者は「精神の石」の言葉を聞くことができないのだ。このハンターは、首と足の長いキリンのような動物「ロングレッグ」に狙いを定め、木から飛び降りて獲物の背にしがみつく。驚いたロングレッグは彼をしがみつかせたまま走り出す。

 その騒ぎを聞きつけた他の猿人が集まってきた。自分の獲物を横取りされそうになったハンターは、棍棒で相手を打ち、追い払う。だがその間に獲物も逃げてしまった。ハンターは思う、棍棒ではだめだ! もっと長くて歯のように鋭いものが必要だ。彼は「精神の石」から知識を得るため歩き出す。他の猿人たちは彼の秘密を探ろうとあとを追跡する。彼らはハンターの持つ知識の力に嫉妬し、自分たちもその知識を得て彼を殺そうと考えているのだ。宙に浮く黒い石板モノリスのところへやってきたハンターは、モノリスに触れて啓示を得る。他の猿人には彼がモノリスから得た知識がわからない。ハンターは木の枝を折り、その先に鋭い石を付け、ナイフのような武器を作りだした。そこへ、獰猛なサーベルタイガーが現れた。猿人には到底かなわない相手だ。他の猿人は木の上に逃げるが、新たな武器を手にしたハンターはサーベルタイガーに組みつき、その首を切り裂いて仕留めた! この発明を手にしたハンターは、彼を真似る者たちから「ビーストキラー」と呼ばれることになる。彼が手にした進歩は、未来の彼の種族を宇宙にまでも進出させるものであった。

 場面は変わって2001年。宇宙飛行士ウッドロウ・デッカーは、火星と木星の間にある小惑星帯にやってきていた。そこには何者かの作った遺跡があったが、この大発見にもかかわらず、デッカーは不機嫌で、遺跡の瓦礫を手荒に扱っていた。彼と共にここに来たメイソンはそれをとがめるが、デッカーにとってはもう遺跡などどうでもよかった。彼らの乗ってきた宇宙船は事故で大破してしまい、ここから生還する手段はないのだ。彼らは遺跡の奥へと進むが、突如怪物が現れ触手を伸ばしメイソンをからめ捕る。デッカーは助けようとするがあっという間にメイソンの宇宙服は破壊され、怪物はメイソンの体を穴に引きずり込んでしまった! 同時に遺跡が崩れ始める。彼の行く前には黒い石板モノリスが見えた。必死のデッカーはモノリスに飛び込んだ! 彼の体は光と共に飛翔し、異星の風景や異質な生命が見えた。デッカーは変わっていく。石器を手にしたビーストキラーが人間になったように。デッカーは何になるのか?

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 気が付くと彼は草むらに倒れていた。意識を取り戻すと、すでに宇宙服を着てはいなかった。ここはどこなのだろうか。デッカーの前に少年が現れ、自分を知っているようで、ここはホームだよと言う。二人は共に道を歩いていくが、気が付くと少年の姿は消えており、デッカーは次第に老人になっていく。ビーストキラーから始まった歩みは止まることはないのだ。体は重く、ついに倒れてしまうデッカー。その前にモノリスが現れ、デッカーの体を新たな姿に変えていく。スター・チャイルドが誕生し、宇宙へ飛び立っていった。

 

 ジャック・カービーは映画『2001: A SPACE ODYSSEY』をMARVEL TREASURY SPECIALという大判コミックで見事にコミカライズしたが、それだけでは終わらず、今度は連載コミック誌として2001: A SPACE ODYSSEYを創刊する。これは、映画から離れて独自のストーリーを展開するということで、驚くべきことだ。

  連載コミック誌2001: A SPACE ODYSSEY第1話は、まだそれほど映画から逸脱していない。映画とは別のストーリーで、原人が石器を手にする過程が描かれたり、宇宙怪物が登場したりという違いはあるものの、原始時代の原人にモノリスが知識を与え、2001年の宇宙飛行士がスター・チャイルドになるという同様の筋書きだ。ビーストキラーが石器を手にし猛獣を仕留めるのは、進歩の象徴として判りやすい。デッカーが歩む田舎道は、映画のボーマンが到達したホテルのように、モノリスが与えたイメージなのだろう。映画と同じテーマを別の人物、展開に置き換えて語っているのだが、これをベースに第2話からは変貌していく。