アメコミ情報誌SleepWalker Blog版

昔のアメコミを紹介しています

2001: A SPACE ODYSSEY #2

1977年 JAN

EDITED, WRITTEN AND DRAWN BY: JACK KIRBY

 

 原始時代、ヴィラという女性がいた。頭を動物の牙で飾り、棒につけた燃えさかる髑髏を突き出し、原始人の男たちを威圧している。武器を手にやってきた男たちは、彼女の奇怪な行動に驚き恐れる。彼女は精神の石から死者を司る力を得ているのか? 男たちは威圧されその場を去ったが、ヴィラは自分を守るためさらなる力を必要としていた。

 ヴィラは死した獣の骨が散乱する荒々しい火の山の険しい道を登っていった。彼女の前に現れるモノリス。ヴィラは精神の石が自分に何かを語りかけるのを感じた。啓示を受けたヴィラは、獣の骨が人に死の恐怖の感情をもたらすことに気付くのだった。

 原始人の男たちは燃えさかる火を前に槍を手に荒々しい踊りを踊っていた。そこに、奇怪な叫び声が響く。彼らの前に、巨大な骨をかぶり女悪魔と化したヴィラが現れ、槍を置きひれ伏せ!、さもなくば我に喰われるであろうと叫んだ。この策略は成功し、男たちはヴィラを崇め、石の家を建て捧げ物を献上するようになった。こうして身の安全と地位を得たヴィラ。彼女が人類で最初に得たこの道は、後世の王や議会へつながるものであった。

f:id:sleepwalker2099:20210822131237j:plain

 時は移って未来。ヴェラ・ジェントリーというNASAの女性宇宙開拓者が、木星最大の衛星ガニメデの基地にいた。彼女はこの地に飛来するというUFOの観測が任務なのだ。ついに飛来したUFOは、基地を攻撃し、ヴェラは宇宙服を着たまま走って逃げる。UFOは基地の生存装置を破壊してしまった。岩山の間に逃げ込んだヴェラだが、そこへ宇宙服を着た異星人が迫り、銃撃される。洞窟の中に逃げ込んだヴェラの前に、モノリスが出現した。迫ってきた異星人に追い詰められたヴェラはモノリスを通り抜け、宇宙や異星怪物を見る。さらに宇宙服から水着になってプールで泳ぎ、椅子に座って眠る。急速に老いたヴェラを、モノリスはスター・チャイルドに変えるのだった。

 

 前半で昔の人類を描き後半で未来を描くという構成は1話と同じだが、第2話の主人公は女性になり、映画から大きく離れた。前半のヴィラ・ザ・シーデビルの話は、第1話の石器を手に入れた猿人という物質的な進歩の次の段階として、死という概念を周囲に示す、精神的な進歩を描いている。

 後半は女性宇宙開拓者が宇宙円盤や異星人兵士に追われるというトンデモ展開である一方、モノリスを通り抜けたあと宇宙を幻視し日常の風景に戻ったあと老いてスター・チャイルド化するという展開はまだ映画に準じている。こうしてこのタイトルは徐々に映画から離れていき、次号は前後編となるのだ。

2001: A SPACE ODYSSEY #1

 1976年 DEC

 EDITED, WRITTEN & DRAWN BY JACK KIRBY

 

 太古の時代、一人の猿人が木の上に立ち、棍棒を持って獲物を狙っている。彼の同族は今そこにはいない。彼はそれを好ましいと思う。彼は他の者が嫌いであった。他の者は「精神の石」の言葉を聞くことができないのだ。このハンターは、首と足の長いキリンのような動物「ロングレッグ」に狙いを定め、木から飛び降りて獲物の背にしがみつく。驚いたロングレッグは彼をしがみつかせたまま走り出す。

 その騒ぎを聞きつけた他の猿人が集まってきた。自分の獲物を横取りされそうになったハンターは、棍棒で相手を打ち、追い払う。だがその間に獲物も逃げてしまった。ハンターは思う、棍棒ではだめだ! もっと長くて歯のように鋭いものが必要だ。彼は「精神の石」から知識を得るため歩き出す。他の猿人たちは彼の秘密を探ろうとあとを追跡する。彼らはハンターの持つ知識の力に嫉妬し、自分たちもその知識を得て彼を殺そうと考えているのだ。宙に浮く黒い石板モノリスのところへやってきたハンターは、モノリスに触れて啓示を得る。他の猿人には彼がモノリスから得た知識がわからない。ハンターは木の枝を折り、その先に鋭い石を付け、ナイフのような武器を作りだした。そこへ、獰猛なサーベルタイガーが現れた。猿人には到底かなわない相手だ。他の猿人は木の上に逃げるが、新たな武器を手にしたハンターはサーベルタイガーに組みつき、その首を切り裂いて仕留めた! この発明を手にしたハンターは、彼を真似る者たちから「ビーストキラー」と呼ばれることになる。彼が手にした進歩は、未来の彼の種族を宇宙にまでも進出させるものであった。

 場面は変わって2001年。宇宙飛行士ウッドロウ・デッカーは、火星と木星の間にある小惑星帯にやってきていた。そこには何者かの作った遺跡があったが、この大発見にもかかわらず、デッカーは不機嫌で、遺跡の瓦礫を手荒に扱っていた。彼と共にここに来たメイソンはそれをとがめるが、デッカーにとってはもう遺跡などどうでもよかった。彼らの乗ってきた宇宙船は事故で大破してしまい、ここから生還する手段はないのだ。彼らは遺跡の奥へと進むが、突如怪物が現れ触手を伸ばしメイソンをからめ捕る。デッカーは助けようとするがあっという間にメイソンの宇宙服は破壊され、怪物はメイソンの体を穴に引きずり込んでしまった! 同時に遺跡が崩れ始める。彼の行く前には黒い石板モノリスが見えた。必死のデッカーはモノリスに飛び込んだ! 彼の体は光と共に飛翔し、異星の風景や異質な生命が見えた。デッカーは変わっていく。石器を手にしたビーストキラーが人間になったように。デッカーは何になるのか?

f:id:sleepwalker2099:20210822130354j:plain

 気が付くと彼は草むらに倒れていた。意識を取り戻すと、すでに宇宙服を着てはいなかった。ここはどこなのだろうか。デッカーの前に少年が現れ、自分を知っているようで、ここはホームだよと言う。二人は共に道を歩いていくが、気が付くと少年の姿は消えており、デッカーは次第に老人になっていく。ビーストキラーから始まった歩みは止まることはないのだ。体は重く、ついに倒れてしまうデッカー。その前にモノリスが現れ、デッカーの体を新たな姿に変えていく。スター・チャイルドが誕生し、宇宙へ飛び立っていった。

 

 ジャック・カービーは映画『2001: A SPACE ODYSSEY』をMARVEL TREASURY SPECIALという大判コミックで見事にコミカライズしたが、それだけでは終わらず、今度は連載コミック誌として2001: A SPACE ODYSSEYを創刊する。これは、映画から離れて独自のストーリーを展開するということで、驚くべきことだ。

  連載コミック誌2001: A SPACE ODYSSEY第1話は、まだそれほど映画から逸脱していない。映画とは別のストーリーで、原人が石器を手にする過程が描かれたり、宇宙怪物が登場したりという違いはあるものの、原始時代の原人にモノリスが知識を与え、2001年の宇宙飛行士がスター・チャイルドになるという同様の筋書きだ。ビーストキラーが石器を手にし猛獣を仕留めるのは、進歩の象徴として判りやすい。デッカーが歩む田舎道は、映画のボーマンが到達したホテルのように、モノリスが与えたイメージなのだろう。映画と同じテーマを別の人物、展開に置き換えて語っているのだが、これをベースに第2話からは変貌していく。